フジテレビ水10ドラマ『全領域異常解決室』の元ネタや出典まとめ

フジテレビ水10ドラマ『全領域異常解決室』(全決)の元ネタや出典をまとめています。

この記事の目的は、あくまでも「作品に登場する元ネタ・出典」を一箇所に記載しておくことであり、本編のストーリーを要約、または考察するものではありません。

内容は随時更新予定です。

エピソード1「シャドーマンと神隠し事件」

シャドーマン(シャドーピープル)

シャドーマン、またはシャドーピープルは、2006年頃からアメリカを中心に世界各地で目撃されている怪奇現象である。以下にその概要をまとめる。(参考画像はWikipediaより引用)

特徴

  • 人間の影のような真っ黒な人型の姿をしている。
  • 単独で出現し、動きが非常に素早い。
  • 帽子とコートを身につけているように見える場合がある。

目撃情報

  • 室内や屋外など、様々な場所で目撃されている。
  • 出現前に焦げ臭いにおいや静電気のような痛みを感じることがある。
  • 爆発音や家具の揺れなどの現象を伴うこともある。
  • 目撃者が体調不良になるケースも報告されている。

記録と証拠

  • 写真やビデオカメラで撮影されたケースがある。
  • 防犯カメラに記録された例もある。

正体についての仮説

  • 異次元の存在が投影されたもの
  • エネルギー生命体
  • 特殊な幽霊
  • 未確認動物(UMA)としての扱いもある。

シャドーマンは現代の怪奇現象や都市伝説として注目を集めており、その正体については様々な説が唱えられているが、依然として謎に包まれている。目撃情報は増加傾向にあり、世界各地で報告されている。

モザイクスプレー

作中のおいて、モザイクスプレーはプライバシー保護のためのスプレーとされており、フードを被った人間にスプレーを吹きかけることで、その人物をカメラで判別できない状態にする効果がある。

しかし、これは現実には存在しない架空の製品である。現在の科学技術では、スプレーを吹きかけるだけで即座にカメラに映らなくなるような技術は実現できない。

ただし、モザイクスプレーに類似した技術として、光学迷彩がある。光学迷彩は、視覚的なカモフラージュ技術として、研究が進められている分野である。

光学迷彩の概要

  • 定義:対象物を視覚的に透明化または周囲に溶け込ませる技術。
  • 方法
    • 1. カメレオンタイプ:周囲の映像を映し出して隠れる。
    • 2. 光屈折制御:光を屈折させて擬似的に透過させる。
  • 応用:主に軍事用途で開発中。兵士や兵器のステルス化を目指す。
  • 技術的課題
    • 見られる角度ごとの表示調整
    • 表示性能と装甲性能の両立
  • フィクションでの扱い:SF作品で多く登場し、現実にはまだ完全な実現には至っていない。

【参考資料】ハイパーステルス・バイオテクノロジー社「Quantum Stealth」(2019.10.24. )

修理固成(しゅりこせい)

この言葉には複数の読み方があり、主な読み方は以下の通りである。

  1. しゅりこせい
  2. おさめつくりかためなせ

ちなみに、作中では「しゅりこせい」と読まれていた。

意味と由来

「修理固成」は日本の神道思想において重要な概念である。この言葉の意味と由来は以下に記載する。

  • 起源:古事記に登場する言葉で、天神(あまつかみ)がイザナギとイザナミに与えた命令とされている。
  • 意味::まだ完全に形成されていない国をしっかりと作り上げ、固めていくことを指す。

*天神──高天原(たかまがはら)に住む神々の総称であり、イザナギとイザナミに国造りを命じた。

イザナギ(伊邪那岐命/伊弉諾神)

  • 男性の神。
  • 名前の由来は「誘う(いざなう)」と男性を表す「ぎ」から成る。
  • イザナミと共に日本の国土を生み出した。
  • 黄泉の国からの帰還後、禊(みそぎ)によって三貴子(アマテラス、ツクヨミ、スサノオ)を生んだ。

イザナミ(伊邪那美神/伊弉冉)

  • 女性の神。
  • イザナギの妹であり妻。
  • 名前の由来は「誘う(いざなう)」に助詞「な」と女性を表す「み」から成る。
  • 日本の国土や多くの神々を生んだ。
  • 火の神カグツチを産んだ際に命を落とし、黄泉の国へ去った。

現代的解釈

「修理固成」の概念は、単に神話の一部としてだけでなく、現代にも通じる思想として解釈されている。

  • 継続的な国づくり:この概念は、国が完成したものではなく、常に改善と強化が必要であるという考えを示している。
  • 個人の責任:各個人が国の発展と安定に貢献する責任があるという解釈もある。
  • 創造と再構築:鎌田東二氏によれば、この概念は世界を修理し、作り直し、固め直す能力を示唆しており、リコンストラクションやリメイクの思想にもつながるとされている。

「修理固成」は、古代の神話的概念でありながら、現代社会における継続的な改善と発展の必要性を示唆する思想として解釈されている。

蛭児(ひるこ)

蛭児はイザナギとイザナミの最初の子どもである。しかし、以下の特徴を持つ存在であった。

  • 骨がなく、弱々しい存在であった。
  • 正式な神として認められなかった。
  • 両親によって葦船に乗せられ、流された。

*葦船(あしぶね)──人の歴史においては最古の船とされ、 葦(パピルス・リード)を縄で束ねただけの原始的な船である。

黒髪切(くろかみきり)

作中では黒髪切と紹介されていたが、髪切という名前でしか確認できなかった。

『化物尽絵巻(ばけものづくしえまき)』に描かれている「髪切」について、以下のような概要をまとめることができる。

*化物尽絵巻は、犬神や猫またなど22種の化物が描かれた巻物である。著作者は北斎季親(ほくさいすえちか)。

名称と特徴

  • 『化物尽絵巻』では「髪切」が「鳶鬼(とびおに)」という名前で紹介されている。
  • この絵巻は江戸時代に制作されたもので、現在は個人が所有し、福岡県立美術館に寄託されている。
  • 実際の絵巻は、日文研デジタルアーカイブにて閲覧することができる。

描写の特徴

  • 『化け物尽し絵巻』の「髪切」(鳶鬼)の描写は、既存の妖怪画に詞書(ことばがき)を添えて制作されたと考えられている。
  • この絵巻に登場する全ての妖怪の名前が変更されているという特徴がある。

髪切(鳶鬼)の特性

  • 詞書によると、鳶鬼は出雲国の海辺に生息するとされている。
  • 鳶鬼の食性として、小魚や鳥の肉、鼠などを食べるとされている。

背景

  • この「髪切」(鳶鬼)の描写は、江戸時代に広く知られていた「髪切り」という妖怪の伝承を基にしていると考えられる。
  • 一般的な「髪切り」妖怪は、人間の頭髪を密かに切るとされる日本の妖怪で、17世紀から19世紀にかけて江戸時代の市街地でたびたび噂になっていた。

『化物尽絵巻』の「髪切(鳶鬼)」の描写は、江戸時代の妖怪文化や民間伝承を反映した興味深い例と言えるだろう。

髪切の奇談(かみきりのきだん)

作中で紹介された画幅「髪;カミ,髪切;カミキリ」は、国際日本文化研究センターによって公開されており、日文研デジタルアーカイブにて実物を閲覧することができる。著作者は、よし藤。

以下、国際日本文化研究センター怪異・妖怪画像データベースからの引用である。

江戸番町で起きた怪異を知らせる錦絵。4月20日の夜更けに、番町某屋敷の女中が便所に行ったところ、突然「真っ黒なる者」に襲われたという。女中は気絶してしまったが、物音に気付いた家人が集まり女中を起こすと、結っていた髪が切られ離れた所に落ちていたという。

「髪切りの奇談」は、江戸時代から明治時代にかけて日本で広く知られていた怪奇現象に関する話である。以下にその概要をまとめる。

現象の特徴

髪切りは、人が気づかないうちに突然頭髪を切られるという不可解な出来事を指す。被害者は主に女性で、特に商店や屋敷の召使いが標的になることが多かったとされている。

歴史的記録

  • 江戸時代の寛保年間(1741年-1743年)の説話集『諸国里人談』に記録が残っている。
  • 元禄時代初期には、伊勢国松坂(現三重県松阪市)や江戸の紺屋町(現東京都千代田区)で多発したとされている。
  • 明治7年(1874年)には、東京都本郷3丁目で「ぎん」という召使いの女性が被害に遭い、新聞でも報じられた。

髪切りの正体に関する諸説

  1. キツネの仕業説:室町時代の日記『建内記』や江戸時代の随筆『耳嚢』にこの説が記されている。
  2. 髪切り虫説:江戸時代後期の『嬉遊笑覧』に記載があり、想像上の虫が原因とされた。
  3. 人間による犯行説
  • 商業目的:かつら屋による自作自演説
  • 嗜好による犯行:頭髪を切ることに快楽を感じる人物による犯行
  • 迷信による犯行:健康祈願のため女性の髪を切るという迷信に基づく行為

文化的影響

  • 髪切り避けの札や呪文が流行した。
  • 江戸時代の絵巻物や錦絵に髪切りの姿が描かれている。

髪切りの奇談は、日本だけでなく中国やイギリスでも類似の事件が報告されており、国際的な現象としても注目されている。

猿田彦(さるたひこ)

これは、作中のセリフでは出ていなかったものの、デリバリースタッフ・芹田正彦の差し入れである謎の飲み物に書かれていた言葉である。

ストーリーに関連するかどうかは不明ではあるが、日本神話において重要な役割を果たす神であるので、念の為、記載しておく。ヒント:案内役。

サルタヒコ(猿田彦命)は、日本神話において重要な役割を果たす神である。以下にその概要をまとめる。

基本情報

サルタヒコは道祖神(どうそじん)として広く知られており、道の神、旅人の安全や道中の無事を守る神として信仰されている。

また、天孫降臨の際に天孫ニニギを地上に導いた案内役としても有名である。

特徴と外見

サルタヒコの特徴的な外見は以下の通りである。

  • 巨体:2メートルを超える背丈
  • 長い鼻:1メートルを超える長さ
  • 光り輝く顔:ホオズキのように光るとされる

この特異な外見から、天狗*の原型とも言われている。

天狗てんぐ)は、日本の伝承に登場する神や妖怪ともいわれる伝説上の生き物。一般的に山伏の服装で赤ら顔で鼻が高く、翼があり空中を飛翔するとされる。(Wikipediaより引用)

役割と能力

サルタヒコの主な役割と能力は以下の通りである。

  • 道案内:高天原から地上への案内役
  • 道の守護:旅人や交通の安全を守る
  • 方向を示す力:迷うことなく正しい方向を指し示す

神話における重要性

『古事記』や『日本書紀』に記されているサルタヒコの最も重要なエピソードは、天孫降臨の際の案内役としての役割である。

天照大神(あまてらすおおみかみ)の命を受けた天孫ニニギが高天原から地上へ降りる際、サルタヒコが道案内を務めた。

*天照大神──日本神話の最高神
*天孫ニニギ(ニニギノミコト)──天照大神の孫であり、天孫降臨の主役
*天孫降臨──ニニギノミコトが高天原から地上の葦原中国(あしはらなかつのくに)に降り立った出来事を指す

信仰

サルタヒコは日本全国で信仰されており、主に以下の形で祀られている。

  • 道祖神としての信仰:道端や村の入口に石碑や小さな祠が建てられる
  • 天孫降臨の案内役:神社や祭りでその役割が強調される

エピソード2「狐憑き!女子高生集団失神」

狐憑き

狐憑き(きつねつき)は、日本の伝統的な信仰や民間伝承に基づく現象で、狐の霊が人間に取り憑くことで異常な行動や精神状態を引き起こすとされている。

この現象は、特に日本の文化において狐が神聖視されていることに起因している。

概要

  • 定義: 狐憑きは、狐の霊が人に憑依し、その結果として精神的な錯乱や異常行動を引き起こす状態を指す。これは、臨床的には精神病の一種と見なされることもある。
  • 歴史的背景: この信仰は古くから存在し、特に近世までは広く信じられていた。狐は田の神の使いとされ、豊作や不作を占う存在としても崇められていた。狐憑きの治療には、祈祷師による儀式が行われ、狐を「落とす」ことで正常な状態に戻すとされていた。
  • 地域差と呼称: 地域によっては、狐憑きに関連する異なる呼称や伝承が存在する。例えば、管狐(くだぎつね)やオサキ(御先稲荷)などがあり、これらは狐の霊の異なる側面を表している。
  • 現象の特徴: 狐に憑かれた人は、狐のような振る舞いをすることがあり、特定の食べ物を要求したり、異様な動作をすることが観察される。また、狐憑きは特に女性に多く見られるとされ、社会的な偏見や差別の対象となることもあった。
  • 現代の視点: 現代では、狐憑きは精神的な問題として理解されることが多く、民俗学や精神医学の観点から研究されている。特に、狐憑きが精神的な錯乱の一形態であることが指摘されている。

狐憑きに関する説明は、さまざまな資料において異なる視点から記述されている。以下に、作中で引用されていた各資料からの説明をまとめる。

『繪本妖怪奇談』(お茶の水女子大学図書館所蔵)出典:国書データベース

この資料では、狐憑きは精神に錯乱をきたす現象として描かれている。狐の霊に取り憑かれた人は、熱病のようにうなされ、うわ言を言ったり奇声をあげたりすることがあるとされている。

これは、狐憑きが精神的な異常を引き起こすことを示唆している。

『今昔物語集』(九州大学附属図書館)

平安時代のこの作品では、狐憑きが物の怪の影響として描かれている。具体的には、狐が人に取り憑き、その人が異常な行動を示す様子が語られている。

物の怪が霊媒を通じて語りかける場面もあり、狐憑きが単なる迷信ではなく、当時の人々の信仰や文化に深く根ざしていることが示されている。

藤原実資『小右記』

藤原実資の日記『小右記』では、狐憑きに関する具体的な事例が記録されている。

彼は、狐憑きが精神的な問題として認識されていたことを示す逸話を残しており、狐の影響を受けた人々の行動やその治療法についても言及している。

これにより、狐憑きが当時の社会でどのように理解されていたかがわかる。

歌川国芳『道外狐へん化のけいこ』個人蔵

この浮世絵では、狐が人間に変化する様子が描かれており、狐憑きの文化的な側面が強調されている。

狐が人間に憑依することで、さまざまな奇妙な現象が引き起こされることが視覚的に表現されている。

これにより、狐憑きが単なる精神的な問題だけでなく、文化的な象徴としても重要であることが示されている。

門脇真枝 著『狐憑病新論』(国立国会図書館デジタルコレクション)

この著作では、狐憑きが精神病の一種として論じられている。門脇は、狐憑きが精神的な錯乱の一形態であるとし、歴史的な文献や医療の観点からその現象を分析している。

彼の研究は、狐憑きが迷信や信仰に基づくものではなく、実際の精神的な問題として理解されるべきであることを強調している。画像1では「狐憑證例表」と書かれていることが確認できる。

延喜式祝詞(えんぎしきのりと)

生物教師・山杉に異変が起きた際、興玉が唱えていたのは、延喜式祝詞の一文である。

「延喜式祝詞」は、平安時代に編纂された神道の祭祀に関する重要な文書で、特に神々への祈りや祝詞が収められている。

この祝詞は、神々に対して奉納される言葉であり、祭祀の際に唱えられることが一般的である。

「平けく安けく 奉らしめ賜ふが故に 豐磐窓命 櫛磐窓命と 御名を稱辭竟へ 奉らくと白す」

  • ひらがな: ひらけくやすけく たてまつらしめたまふがゆえに とよいはまどのみこと くしいはまどのみことと みなをたたえごとを たてまつらくとまをす

概要

  • 目的: 延喜式祝詞は、神々に対して感謝や祈願を表すために用いられ、特に国家の安寧や豊作を祈る内容が多く含まれている。
  • 構成: 祝詞は、祭神の名前を唱え、その神の徳を称え、神饌や幣帛を奉納する形式で構成されている。具体的には、神々の名前を挙げた後、彼らに対する感謝や願いを述べる形が一般的。
  • 文体: 祝詞は、特有の文体や措辞を持ち、比喩や反復、対句などの修辞技法が用いられている。これにより、荘重で格式のある表現がなされている。
  • 例文の解釈: 「平けく安けく 奉らしめ賜ふが故に 豐磐窓命 櫛磐窓命と 御名を稱辭竟へ 奉らくと白す」という文は、豊磐窓命*と櫛磐窓命*の名を称え、彼らの加護によって国が平穏で安定するように祈る内容を示している。このように、祝詞は神々への直接的な呼びかけと、彼らの力を借りる願いを表現している。

豊磐窓命(とよいわまどのみこと)と櫛磐窓命(くしいわまどのみこと)は、日本神話に登場する神々で、主に門や入口を守る役割を持っている。

  • 豊磐窓命: 天太玉命の子とされ、神殿や宮殿の門を守る神。外敵からの侵入を防ぐ役割を果たし、各地の神社で祀られている。
  • 櫛磐窓命: 同様に門を守る神で、豊磐窓命と対を成す存在。彼もまた、神殿の門を守る役割を担っている。

両者は、神社の参道や神門に祀られ、地域の安全を守る神として信仰されている。

ケサランパサラン

ケサランパサランは、日本の民間伝承に登場する謎の生物で、江戸時代以降に広まったとされている。以下にその概要をまとめる。

概要

  • 外観: ケサランパサランは、タンポポの綿毛やウサギの尻尾のような、白くふわふわした毛玉の形状をしている。空中を漂ったり、転がったりする様子が目撃されている。
  • 伝承: この生物を見つけた人には幸運が訪れるとされ、特に「見つけたら幸せになる」という言い伝えがある。また、ケサランパサランは「おしろい」を食べて育ち、桐の箱で飼うことができるとも言われている。
  • 正体: ケサランパサランの正体は未確認で、植物由来のものや動物の毛、昆虫の幼虫など、さまざまな説がある。実際には、猛禽類が消化しきれずに吐き出した羽根の塊であることが多いとされている。
  • 文化的影響: 1970年代に広く知られるようになり、マンガやテレビなどでも取り上げられた。ケサランパサランは、幸運をもたらす存在として、現代でも多くの人々に親しまれている。

このように、ケサランパサランは日本の文化において特異な存在であり、神秘的な魅力を持つ生物として語り継がれている。

寺島良安尚順 編『和漢三才図会:105巻首1 巻尾1巻』(国立国会図書館 デジタルコレクション)

この資料では、ケサランパサランは民間伝承の一部として紹介されており、特にその外見や生態について詳しく述べられている。

ケサランパサランは、白くふわふわした毛玉のような形状をしており、特に「おしろい」を食べて育つとされている。また、桐の箱で飼うことができ、餌として白粉を与えることが推奨されている。

さらに、見る行為には厳格な決まりがあり、「1年に1度しか見てはならない」とされ、二度見ると災いが起きたり、死ぬという伝承が存在する。

くずし字で書かれている説明には「へいさらばさら」「へいたらばさる」とあり、これらは元々異国の言葉であることが示されている。また、「鮓荅(ツォタ)」という字も読み取れる。

『民間伝承』16(1)(164),日本民俗學 曾,1952-01.(国立国会図書館 デジタルコレクション)

この論文では、ケサランパサランの民間伝承に関する詳細な考察が行われている。特に、ケサランパサランが幸運をもたらす存在としての位置づけや、地域ごとの異なる伝承が紹介されている。

また、見つけた人には幸運が訪れるという信仰が強調され、ケサランパサランが日本の文化においてどのように受け入れられているかが論じられている。

出典:『改訂・携帯版 日本妖怪大辞典』画:水木しげる、編著:村上 健司 KADOKAWA/角川文庫

この辞典では、ケサランパサランの概要や特徴が簡潔にまとめられている。特に、ケサランパサランが「見つけたら幸運になる」という伝承、飼育方法、見る際の注意事項についても触れられている。

具体的には、桐の箱で飼い、餌には白粉を与えること、そして見る行為には厳格な決まりがあることが記されている。また、二度見ると災いが起きるという警告も含まれている。

井戸を埋める神事

井戸を埋める神事は、日本の伝統的な儀式であり、井戸が持つ神聖な意味や水の恵みに感謝するために行われる。以下にその概要をまとめる。

概要

  • 目的: 井戸を埋める際には、水の神様に感謝の意を表し、井戸を埋めることを報告するための神事が行われる。これは、井戸が人々の生活に欠かせない水源であったため、その恩恵に対する感謝を示す重要な儀式である。
  • 神様への報告: 井戸を埋める前に、井戸に宿る神様(例: 弥都波能売神や御井神)に対して、埋める理由を説明し、これまでの恵みに感謝する祝詞を奏上する。これにより、神様に対する敬意を表し、埋めた後の災いを避けることを願う。
  • 儀式の流れ: 神事は、井戸の前に祭壇を設け、祝詞を唱えた後、井戸を埋める作業が行われる。埋める際には、井戸の神様が呼吸できるように「息抜き」を行うこともある。
  • 感謝の意: 井戸が枯れたり、水質が悪化した場合だけでなく、やむを得ない事情でまだ使える井戸を埋める場合にも、神様に感謝の意を示すことが重要である。埋めた後も、地域や土地の安全を祈願する。

香蝶楼国貞,国貞『大工上棟之図』,鍵屋半次郎.(国立国会図書館 デジタルコレクション)

この浮世絵では、上棟式の様子が描かれており、井戸を埋める神事に関連する儀式の一環として、建物の完成を祝うための餅撒きや神への感謝が表現されている。

井戸が持つ神聖な意味合いが強調され、井戸を埋める際にも神事が行われることが示唆されている。

上棟式は、建物の骨組みが完成したことを祝う重要な儀式であり、井戸もその一部として扱われることが多い。

『高階隆兼等/石山寺縁起』出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム

この資料では、井戸に関する神事や祭りが記載されており、井戸が地域の水源としての重要性を持つことが強調されている。

井戸を埋める際には、神様への感謝や報告が行われ、地域の人々がその儀式に参加することが伝えられている。井戸の神聖さと、それに伴う儀式の重要性が示されている。

『両国水神祭夕凉の図』(東京都立図書館所蔵)

この図は、水神祭の様子を描いており、井戸や水に関連する神事が行われることを示している。

井戸を埋める神事も、水の神様への感謝を表す一環として位置づけられ、地域の人々が集まり、神事を通じて水の恵みを祈る様子が描かれている。

栗原信充(柳庵)著『先進繍像玉石雑誌 巻第3,4』碗屋喜兵衛(国立国会図書館 デジタルコレクション)

この著作では、井戸に関する民間伝承や神事が紹介されており、井戸を埋める際の儀式やその背景が詳しく述べられている。

井戸を埋めることは、神様への感謝を示す重要な行為であり、地域の文化や信仰に深く根ざしていることが説明されている。

特に、井戸を埋める際には厳格なルールが存在し、神聖な儀式として行われることが強調されている。

エピソード3「空から足が降ってきた! 時空を超えた殺人事件」

タイムホール

タイムホールとは、過去や未来と繋がる異次元媒介装置のことを指す。この概念は、重力理論に基づいており、特に重力が時空に与える影響を考慮したものである。タイムホールは、時空の特定のポイントを結ぶトンネルのような構造を持ち、物体が瞬時に異なる時間や空間に移動できる可能性を示唆している。

この理論は、重力の強い領域、例えばブラックホールの近くでの時空の歪みを利用することが考えられている。重力が強い場所では、時間の流れが遅くなるため、理論的には時間旅行が可能になるとされている。現代の科学において、タイムホールの存在は理論的には支持されているものの、実際に証明されたわけではない。

科学的背景

  • ワームホールの理論: タイムホールは、一般相対性理論に基づくワームホールの一種と考えられている。ワームホールは、アインシュタインの方程式の特別な解として提案され、異なる時空の点を結ぶ構造。
  • エキゾチック物質の必要性: ワームホールを安定させるためには、「エキゾチック物質」と呼ばれる負の質量を持つ物質が必要とされているが、これは未だに実在が確認されていない仮定の物質である。
  • 実現の難しさ: 現在の科学技術では、ワームホールを生成するために必要なエネルギー量は非常に大きく、実現可能性は低いとされている。また、ワームホールが存在するかどうかも未解明のままである。

ファフロツキーズ現象

ファフロツキーズ現象とは、空から魚やカエルなどの生物が降ってくる不可解な現象を指す。この現象は、竜巻や突風によって水生生物が巻き上げられ、遠くの地点に落下することが主な原因とされている。ファフロツキーズという名称は、超常現象研究家アイヴァン・サンダーソンによって「falls from the skies」を略して造られた。

以下は、作中でファフロツキーズ現象として紹介されていた実際の出来事である。

1989年:オーストラリア、800匹の魚

オーストラリアのクイーンズランド州イプスウィッチで発生。約800匹のサーディンが庭に降り注いだと報告されている。原因としては、海上で発生した竜巻が魚を巻き上げ、内陸に運んだと考えられている。

1981年:ギリシャ、カエル

1981年、ギリシャ南部のナフプリオンでカエルが降ったという報告がある。この現象も、竜巻や強風によってカエルが巻き上げられた結果とされている。具体的な証拠は少ないものの、類似の現象が他の地域でも確認されている。

1890年:イタリア、血の雨

1890年、イタリアのカラブリア州メシナで「血の雨」が降ったとされる事件がある。この現象は、強風によって鳥の死骸が引き裂かれ、その血液が降ったと考えられている。実際に目撃された証言があり、科学的な説明も存在するが、詳細な証拠は不明。

2009年:日本・石川県、オタマジャクシ

2009年6月4日、石川県七尾市でオタマジャクシが大量に降った事件が発生。約100匹のオタマジャクシが駐車場に落下したと報告され、周囲の気象条件から竜巻が起こる可能性は低いとされている。この事件は、未だに原因が解明されていないため、ファフロツキーズ現象の一例として注目されている。

主な科学的説明

ファフロツキーズ現象は、主に以下の科学的な説明が提唱されている。

  • 竜巻説: 竜巻や強風が水生生物を巻き上げ、遠くの地点に運ぶという説明が最も一般的。特に、海上で発生した竜巻が魚を吸い上げ、内陸に降らせることが多いとされている。この現象は、強い上昇気流によって物体が高く持ち上げられ、数マイル離れた場所に落下することがあるため、実際に観察された事例も存在する。
  • ウォータースパウト: 水面上に発生する円柱状の強い渦であるウォータースパウトも、ファフロツキーズ現象の原因として考えられている。ウォータースパウトが水面近くの生物を巻き上げ、空中に運ぶことが可能。
  • 鳥原因説: 一部のケースでは、鳥が捕まえた獲物を空中で落とすことが原因とされることがある。しかし、特定の地点に大量の生物が降る場合、この説はあまり支持されていない。狭い範囲に多数の生物が落下するためには、大規模な群れが必要だが、そのような目撃情報は少ないため、信憑性は低いとされている。
  • 人為的要因: 飛行機からの貨物の散布や、氷の塊が落下することも一因として考えられているが、これは特定のケースに限られる。

エピソード4「原因は縊鬼!? 大手町連続エリート飛び降り事件」

縊鬼(イツキ)

縊鬼(いき、いつき)は、中国および日本の伝承に登場する恐ろしい妖怪である。主に自殺、特に首吊り自殺を強要する存在として知られている。縊鬼の主な特徴は以下の通り。

  • 外見:具体的な描写は文献によって異なるが、一般的に長く舌を出した姿が特徴とされている。これは首吊り自殺者の死後の状態を反映していると考えられている。
  • 行動:人間に取り憑き、自殺を促す。特に日本の伝承では、理由もなく衝動的に相手に首吊り自殺を行わせようとする。取り憑かれた人は夢のような状態になり、「首を括ってくれ」という強い衝動に駆られる。
  • 能力:自分と同じ死に方をさせることで、自らの代わりとなる者を求める。中国の伝承では、冥界の人口を維持するために、自分の代わりとなる者が必要とされるという考えがある。
  • 起源:中国の「いき」という概念から影響を受けており、「鬼求代」(ききゅうだい)と呼ばれる思想に基づいている。これは、死者が生まれ変わるためには新たな死者が必要であるという考え方。
  • 日本での解釈:江戸時代の文献にも記述が見られ、昭和・平成以降では水死者の霊とも関連付けられるようになった。現代社会における精神的な問題や自殺問題を象徴する存在としても解釈されている。

縊鬼は、単なる妖怪としてだけでなく、人間の心の闇や社会的な問題を反映する存在として、文化や時代を超えて人々の心に深い影響を与え続けている。その伝承は、自殺や精神的苦痛といった深刻なテーマと結びついており、現代のメディアにも登場することがある。

石川鴻斎 編『夜窓鬼談』_縊鬼挿絵(国立国会図書館デジタルコレクション)

国書刊行会 編『鼠璞十種』第一(国立国会図書館デジタルコレクション)

崇文叢書 第1輯之26(国立国会図書館デジタルコレクション)

麦角アルカロイド

麦角アルカロイドは、主にムギ類に寄生する麦角菌が産生する化合物群で、その危険性と症状について以下のように説明できる。

麦角アルカロイドの主な危険性:

  • 中毒症状:適切に管理されていない食品や医薬品を通じて摂取すると、深刻な中毒症状を引き起こす可能性がある。
  • 血管収縮作用:強力な血管収縮作用を持ち、血流を阻害する恐れがある。
  • 神経系への影響:中枢神経系に作用し、幻覚や精神症状を引き起こす可能性がある。
  • 妊娠への影響:妊娠中の摂取は胎児に悪影響を及ぼす可能性がある。

主な症状:

  • 消化器症状:吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などが現れることがある。
  • 循環器症状:血管収縮による四肢の冷感、しびれ、壊疽などが起こる可能性がある。
  • 神経症状:めまい、頭痛、痙れん、幻覚、錯乱状態などが報告されている。
  • 筋肉症状:筋肉の痛みや筋力低下が見られることがある。
  • 妊娠関連:妊婦の場合、流産や早産のリスクが高まる可能性がある。

重要な注意点として、これらの症状の程度や発現は摂取量や個人の感受性によって大きく異なる。

『Claviceps purpurea(バッカクキン)』(京都大学付属図書館所蔵)

Matthias Grünewald「lsenheim Altarpiece - Saints - Left」Public domain

The Elisha Whittelsey Collection, The Elisha Whittelsey Fund, 1946
「Cover for 'Oraculo Mignon', a witch brewlng a potion in a cauldron」(The Metropolitan Museum of Art, New York)

Martin Le France「W.Schild.Die Maleficia der Hexenleut」

Gift of Roberto Berdecio,1960「A witch carrying a child on her broom」(The Metropolitan Museum of Art, New York)

エピソード5「連続爆破! 首都大パニック! 千里眼VS爆弾魔」

千里眼

千里眼(せんりがん)とは、遠方の出来事や将来のこと、また隠れているものなどを見通す能力、またはその能力を持つ人を指す。 この言葉は、中国の歴史書『魏書』に登場する楊逸という官僚の逸話に由来する。楊逸は間諜を使って役人を監視し、遠方の情報を把握していたため、人々から「千里眼を持つ」と称された。 また、道教においては、媽祖に仕える神の名でもあり、遠方の出来事や未来を見通す力を持つとされる。 日本では、明治時代に御船千鶴子や長尾郁子らが千里眼の能力を持つとされ、公開実験や論争が巻き起こった「千里眼事件」が知られている。

真宗大学講師 福来友吉氏。教育実成会編纂『明治聖代 教育家銘鑑 第壱編』

César de Notre-Dame「Nostradamus」

Ted Serios "A Man Who Thinks Pictures" LIFE Magazine

御船千鶴子

御船千鶴子(1886年~1911年)は、明治時代末期に活動した日本の霊能者である。彼女は「透視能力者」として注目され、京都帝国大学においてその能力が検証されるなど、学界でも話題となった。特に、封筒に入れた文章を透視できるとされ、その正確さが称賛された。しかし、彼女の能力については疑問視する声も多く、検証方法や実験の信憑性を巡り議論が続いた。千鶴子は最終的に自ら命を絶ち、その死をもって「霊能者」としての生涯を閉じた。彼女の死後、透視能力の真偽や検証のあり方についてはさらに議論が深まり、日本における超常現象の研究にも影響を与えた。

東京帝国大学文科大学心理学教室 編「実験心理写真帖」(国立国会図書館デジタルコレクション)

「朝日新聞、1910.9.18」

福来友吉 著『透視と念写』, 東京宝文館(国立国会図書館デジタルコレクション)

柏書房『グラヒック THE GRAPHIC 復刻版』

福来友吉 著『透視と念写』, 東京宝文館(国立国会図書館デジタルコレクション)

「朝日新聞、1911.01.21」

市寸島比売命

市寸島比売命(いちきしまひめのみこと)は、日本神話に登場する女神である。主に海の神とされ、宗像三女神(宗像三女神:田心姫命・湍津姫命・市寸島比売命)の一柱である。天照大神と須佐之男命が誓約を行った際に生まれ、弁才天(弁財天)と同一視されることも多い。宗像大社(福岡県)や厳島神社(広島県)などで祀られ、特に航海安全や水運の守護神として信仰されてきた。また、市寸島比売命は美貌の神でもあり、芸能や財運の神としても崇敬を集めている。

事戸を渡す

「事戸を渡す」とは、ある案件や業務を他者に引き継ぐことを意味する表現である。このフレーズは特にビジネスや行政の分野で使用されることが多く、担当者が変わる際に業務や責任をスムーズに移行させる行為を指す。具体的には、関連する情報や資料を相手に渡し、進行状況や重要なポイントを説明することで、業務の継続性を確保する目的がある。「事戸」は「事務」の口語的な表現であり、「渡す」はそのまま「引き渡す」という意味であるため、全体として「業務を引き継ぐ」という意味合いを持つ表現となる。

エピソード6「神VS神 全面戦争! ここですべてがつながった」

豊玉毘売女(トヨタマビメノミコト)

豊玉毘売(とよたまひめ)は、日本神話に登場する海神である大綿津見神(おおわたつみのかみ)の娘で、山幸彦(彦火火出見尊)との縁が深い存在である。豊玉毘売は、兄の海幸彦との争いに困っていた山幸彦を助け、やがて山幸彦と夫婦となるが、出産の際の出来事により二人は別れることとなる。

豊玉毘売が山幸彦に出産を見られたくないと願い、産屋に籠ったが、山幸彦が約束を破って出産の様子を覗いてしまったことで、彼女の本来の姿であるワニ(もしくはサメ)の姿が露わになる。このことを恥じた豊玉毘売は、子である鵜葺草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと)を残し、海へと帰る決意をする。その後、妹である玉依毘売(たまよりひめ)が養母として子を育て、後に初代天皇である神武天皇の祖先となる。

豊玉毘売は、日本神話において異界(海)の神の象徴として描かれており、地上界と海界を結ぶ存在でもある。その姿は、神秘と自然の神格化を反映しているとされる。

宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)

宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)は、日本神話における農耕や食物を司る神である。宇迦之御魂神は特に稲作や穀物の神として崇拝されており、五穀豊穣や食物の豊かさを象徴する存在である。日本書紀や古事記には、宇迦之御魂神は天孫降臨の際に降臨する稲の神とされており、特に稲荷信仰と結びついている。稲荷神社では宇迦之御魂神が主祭神として祀られることが多く、神使として狐が象徴とされている。農業や商売繁盛、家内安全の守護神としても信仰を集めている。

志和稲荷神社

栗原信充(柳菴)著『先進繍像玉石雑誌』巻第3,4(国立国会図書館デジタルコレクション)

猿田毘古神(サルタビコノカミ)

猿田毘古神(さるたひこのかみ)は、日本神話に登場する神であり、道案内や交通の守護神とされる。猿田毘古神は天孫降臨の際、天照大神の孫である瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)一行を高天原から葦原中国(地上)に導いたことで知られる。この役割から道開きや道案内の神として信仰され、現在では道の守護神や旅の安全を守る神とされている。

猿田毘古神の姿は鼻が長く赤ら顔で、神として異様な特徴を持つとされる。伝承によれば、天狗のイメージにもつながっているとされ、猿田毘古神の神格は後世の天狗信仰にも影響を与えたと考えられる。主に伊勢神宮や三重県鈴鹿市の椿大神社(つばきおおかみやしろ)などで祀られており、多くの参拝者が交通安全や道中の安全を祈願する。

椿大神社

興玉神(オキタマノカミ)

興玉神(こうたまのかみ)とは、日本の神道における神の一柱である。興玉神は、伊勢神宮内宮の近くに鎮座する興玉神社に祀られている神であり、特に天照大御神が鎮座地として選んだ地を守護する役割を担うとされている。興玉神は「興」と「玉」の二文字から成り、地を豊かにし、生命の源となる力を象徴する神であると解釈されることが多い。

また、興玉神は猿田彦大神とも密接な関わりがあり、猿田彦大神が神々の道先案内をした地に祀られたことから、道開きや導きの神としても信仰を集めている。このため、旅の安全祈願や新たな道の開拓を願う人々から篤く崇拝されている。

興玉神はその神徳から、伊勢神宮の周辺だけでなく、広く道案内の神、また土地を豊かにする神として全国で信仰されている存在である。

二見興玉神社

和魂(ニギミタマ)

和魂とは、日本独自の精神的な価値観や文化的な特質を指す概念である。「和魂」は、日本人の内にある調和や共感、優しさ、謙虚さ、忍耐といった徳を強調するものであり、古代より伝わる日本固有の精神性を象徴する言葉である。この概念は中国の「儒教」や「道教」、西洋文化が流入する中で培われ、日本文化の根幹を成すとされている。また、外来の知識や技術を受け入れる際にも、日本の価値観に基づいて柔軟に取り入れ、独自の形に発展させる姿勢として「和魂洋才」という言葉も生まれている。和魂は、時代や状況が変わっても、他者や自然との調和を重んじる日本人の精神基盤として存在し続けているものである。

犬神筋

犬神筋とは、日本に伝わる呪術や信仰において、犬神を操ることができるとされる血統や家系のことを指すものである。犬神は、日本の特定地域で主に信じられてきた動物霊で、特に四国地方においては犬神の存在が広く信仰されてきた。犬神を使役する能力は特定の家系に代々受け継がれるとされ、この家系を「犬神筋」や「犬神持ち」と称する。

犬神筋の家系は、他者に害を与える力を持つと見なされ、地域社会において恐れや偏見の対象となることが多かった。また、犬神筋とされる家系に属する人々は、結婚や社会的交流に制約がかかることもあった。犬神筋が家系に伝わるとされる理由としては、家族間での怨念や争いがあるとも言われ、犬神筋が呪術的な面で深い因縁や負の影響をもたらすと考えられてきたのである。

犬神筋の伝承は、近代化や科学の発展とともに次第に減少しつつあるが、現在でも一部の地域ではその信仰や恐れが残っている。

『犬神図』(国際日本文化研究センター所蔵)

鳥山石燕 画『百鬼夜行 3巻拾遺3巻』(国立国会図書館デジタルコレクション)

『化物尽絵巻』(国際日本文化研究センター所蔵)

大国主神

大国主神は、日本神話における国造りや農業、医薬などの神である。彼は出雲地方を中心に活躍した神として知られ、特に『古事記』と『日本書紀』にその物語が描かれている。大国主神は、スサノオの子孫とされ、幾多の試練を乗り越えて国造りに励んだ。神話においては、因幡の白兎を助ける優しい一面や、スセリビメとの婚姻などが描かれており、他者への慈愛や困難に打ち勝つ強さが表現されている。最終的に天照大神からの譲位を受け入れ、自らの築いた国土を天孫に譲る。彼は出雲大社の主祭神として祀られ、多くの信仰を集める存在である。

国譲/吉田暢生 出雲大社蔵

少名毘古那神(スクナビコノカミ)

少名毘古那神(スクナビコナノカミ)は、日本神話における国造りや医薬、温泉の神である。『古事記』や『日本書紀』に登場し、国土開拓の協力者として大国主神(オオクニヌシノカミ)と共に国造りを行ったとされる。体が非常に小さく、一寸法師に例えられるような小人の姿をしていることが特徴である。

少名毘古那神は、常世の国から漂着したと伝えられ、その後、大国主神と共に日本各地を巡り、土木や農業、医療など多岐にわたる分野で知識や技術を伝えたとされる。特に温泉治療や薬草に関わりが深く、健康や長寿をもたらす神として信仰されている。また、酒造りの神ともされ、酒に関する祭祀にも関連している。

人魚

人魚は伝承上の生物であり、人間と魚の特徴を併せ持つ存在として広く知られている。不老不死の象徴とされ、古代から現代に至るまで日本各地にその伝説が伝わる。不老不死の力は人魚の肉を食べることで得られるとされ、その肉を食した者が永遠の命を授かるという話が語り継がれている。日本各地には人魚の「はく製」が存在し、多くは寺院や神社に安置され、民間信仰の対象として崇められている。これらのはく製は、長年の信仰と伝承に基づくものであり、観光地や文化的遺産としても重要な位置を占めている。

岐阜県博物館 蔵

湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)蔵

所蔵先:八戸市博物館

八百比丘尼(ヤオビクニ)

八百比丘尼(はっぴゃくびくに)は、日本の伝説上の女性である。彼女はある日、父親が漁から持ち帰った不思議な肉を食べたことで、不老不死となる。この肉は人魚の肉であったとされ、これを口にしたことにより、永遠の命を得たと伝えられている。

八百比丘尼は不死を得た後、各地を旅して修行を重ね、比丘尼(尼僧)として人々に悟りや教えを広めたとされる。しかし、長寿ゆえに次第に周囲の人々と別れ、最終的にはひとり孤独に生きることを選んだと伝えられている。この伝説は福井県や和歌山県などに広がっており、彼女の墓や関連する地名が存在する地域もある。八百比丘尼の物語は、人間の生と死や、長寿に対する人々の畏敬と葛藤を象徴するものとされている。

空印寺(提供:一般社団法人若狭おばま観光協会事務局)

滝沢馬琴 著『南総里見八犬伝』第11輯(国立国会図書館デジタルコレクション)

天宇受売命(アメノウズメノミコト)

天宇受売命(あめのうずめのみこと)は、日本神話における女神であり、特に『古事記』や『日本書紀』に登場する。彼女は芸能・舞踊・豊穣の神とされ、天孫降臨神話において重要な役割を果たす存在である。

代表的な神話において、天照大神が天の岩戸に隠れてしまい、世界が暗闇に包まれた際、天宇受売命は天の岩戸の前で踊りを披露した。この踊りが神々を喜ばせ、大きな笑いを引き起こした結果、天照大神は興味を抱き岩戸から顔を出し、世界に再び光が戻ったとされる。このエピソードにより、天宇受売命は日本における舞楽や芸能の起源神として崇められるようになった。

また、天宇受売命は猿田彦命との結びつきが強く、夫婦の神としても祀られる。

エピソード7「犯人は神か人問か!? そして、新たなる神登場!」

大宜津比売神(オオゲツヒメノカミ)

大宜津比売神(おおげつひめのかみ)は、日本神話に登場する女神である。食物を司る神として知られ、その存在は『古事記』や『日本書紀』に記されている。大宜津比売神は、穀物や食料の起源に関する神話において重要な役割を果たす。伝承によれば、自身の体からさまざまな食物を生み出す力を持ち、人々に食物を供給する役割を担った。

神話の中で、大宜津比売神はスサノオや月読命との関わりが語られ、特にスサノオの試みによってその能力が明らかになる場面がある。一説では、大宜津比売神がその体を犠牲にして米、粟、大豆、小豆などを生み出し、これらが後に日本の農耕文化の礎となったとされる。このため、大宜津比売神は農耕神や食物神として信仰されてきた。

また、大宜津比売神は穀物神や台所の神としても祀られることが多い。日本各地の神社では、五穀豊穣や食の恵みに感謝するためにこの神を祀る習慣が残っている。その名は「大きな恵みを持つ女性の神」を意味するとされ、食物と生命の根源的なつながりを象徴している神格である。

布刀玉命(フトダマノミコト)

布刀玉命(ふとたまのみこと)は、日本神話における神であり、特に「古事記」や「日本書紀」において言及される重要な存在である。布刀玉命は主に神器や祭祀に関わる神として描かれ、天岩戸のエピソードで活躍する。

天岩戸隠れの神話では、天照大神が岩戸に隠れた際、布刀玉命は岩戸の前で行われた祭祀の準備を担当し、特に御幣や注連縄などの神具を用意した。この役割から、布刀玉命は祭祀・呪術の専門家としての性格を持つとされる。また、布刀玉命は天照大神の復活に重要な役割を果たし、他の神々とともに祭祀の秩序を整えた。

神格としては、布刀玉命は主に占いや神事に関連する性質を持ち、後世では多くの神社で祭神として祀られている。特に忌部氏やその後裔と深い関係があるとされ、これらの氏族が布刀玉命を祖神として敬った。以上のように、布刀玉命は日本の宗教的儀礼や信仰において欠かせない神であるといえる。

役小角(エンノオズヌ)

役小角(えんのおづぬ、役行者とも)は、飛鳥時代末期から奈良時代初期にかけて活躍したとされる修験道の開祖である。日本の山岳信仰や仏教、道教の要素を融合し、修験道という独自の宗教体系を確立した人物であると伝えられる。

奈良県葛城山を中心に修行を行い、山中での厳しい修行や呪術的な修法を行ったとされる。また、役小角は超自然的な力を持つと信じられ、伝説では鬼神を使役し、自然の力を自在に操ったとされる。これにより「役行者」という名で広く知られるようになった。

一方で、中央政権からはその活動を警戒され、701年には讒訴により伊豆大島に流罪となった。しかし、後に名誉を回復し、その信仰は後世に大きな影響を与えた。特に修験道は平安時代以降、山伏や修験者によって広まり、山岳修行の文化として日本各地に定着した。

役小角の業績と伝説は、日本の宗教史や文化史において重要な位置を占めており、現在でも修験道の祖として崇敬を集めている。

久松定憲 編『皇朝史略字引大全:頭書図彙』巻上,吉岡平助(国立国会図書館デジタルコレクション)

禿氏祐祥 編『古代版画集』中外出版(国立国会図書館デジタルコレクション)
葛飾北斎 画『北斎漫画』10編(国立国会図書館デジタルコレクション)

石槌神社

月読命(ツクヨミノミコト)

月読命(つくよみのみこと)は、日本神話に登場する神であり、主に月を司る存在である。天照大御神、須佐之男命とともに、伊邪那岐命が黄泉の国から帰還し禊を行った際に生まれた三貴子(さんきし)の一柱である。月読命は、天照大御神が太陽を象徴するのに対し、夜と月を象徴する神とされている。

性別や具体的な神徳については諸説あり、古事記や日本書紀でも明確な記述が少ないため、多面的な解釈が存在する。日本書紀では、天照大御神の命を受けて保食神を訪れる神話が記されており、このエピソードから判断力や秩序を象徴する側面が見て取れる。

信仰においては、月読神社(京都府や大阪府などに所在)や伊勢神宮の別宮・月読宮を中心に祀られている。農業、漁業、時間の管理など、月の運行に関連する多くの分野で崇敬される神である。また、月読命は陰陽思想や時間の循環とも関連付けられ、自然の秩序や調和を象徴する存在としての性格が強調される。

月読命は日本の神話や信仰において、月や夜と深く結びつきながらも、普遍的な秩序や調和の象徴として広く認識されている神である。

エピソード8「人間の罪×神の暴走 犯したタブー」

天石戸別神(アメノイワトノワケノカミ)

天石戸別神(アメノイワトノワケノカミ)は、日本神話や神道の文脈で岩戸に関連する神として伝えられる。この神の名にある「イワト」は天照大神が隠れた天岩戸を指し、「ワケ」は「分ける」「開ける」という意味を持つ。このことから、天石戸別神は岩戸の開閉に関わる神格として解釈されてきた。

天照大神が天岩戸に隠れた際、八百万の神々が天安河原に集い、岩戸を開く方法を議論したが、岩戸が閉ざされたままでは世界が光を失い、混沌とした状態が続くとされた。伝承によれば、天石戸別神の役割が果たされない場合、八百万の神々が「黄泉送り」と呼ばれる停滞状態に陥るとされる。この状態は神話そのものに明確な記述があるわけではなく、後世の解釈によるものである。

天石戸別神は、日本神話において直接的な登場頻度は少ないが、後世の神道において岩戸神事や特定の祭祀で重要視される存在である。世界の秩序や光を取り戻す上で重要な役割を象徴する神とされている。

ヒダル

ヒダルとは、日本の民間信仰や伝承において、特に山岳地帯で語られる妖怪または怪異である。ヒダルは主に旅人が山中を移動中に突然感じる強い空腹感や倦怠感として表れるとされ、その原因は霊的な存在に起因すると信じられてきた。この現象は特に「ヒダル神」または「ヒダル神さま」として畏敬を込めて呼ばれることもある。対処法としては、食べ物を少量口にすることで霊を鎮めるとされる。

ヒダルは「だるい」という現代日本語の語源とも関係があるとされている。ヒダルによって引き起こされる身体の重さや活力の低下が、「だるい」という言葉の元となったと考えられている。これにより、ヒダルは単なる伝承の存在ではなく、日本語の発展にも影響を及ぼした文化的要素といえる。

柳田国男 編『山村語彙』大日本山林会編(国立国会図書館デジタルコレクション)

『餓鬼草紙』CoIBase(https://colbase.nich.go.jp/)

エピソード9「最重要神、命の危機! 救世主は荒ぶる神スサノオ」

天之加久矢(アメノカクヤ)の矢尻

天之加久矢(アメノカクヤ)の矢尻は、日本神話や伝承に登場する特別な矢の一部である。矢尻は鋭利で特別な加工が施されており、神聖さや象徴性が強調されている。素材は一般的に金属や石が多く、神秘的な力を宿すとされる。これにより、神話の中では戦いや儀式で重要な役割を果たす。

また、矢尻の形状には美しさと機能性が融合しており、射手の技量と矢の精度を高める工夫が見られる。特に、精緻な彫刻や模様が施されている場合が多く、文化的価値が高い。このような矢尻は単なる武器ではなく、精神性や芸術性を含んだ存在として認識される。

総じて、天之加久矢の矢尻は日本文化における信仰と技術の結晶であり、その役割は物質的な用途を超えて精神的な意味を持つものである。

佐藤武 著『少国民の古事記』文松堂(国立国会図書館デジタルコレクション)

建速須佐之男命(タケハヤスサノオノミコト)

建速須佐之男命(タケハヤスサノオノミコト)は、日本神話に登場する重要な神である。彼は『古事記』や『日本書紀』に記される神々の一柱で、イザナギとイザナミの間に生まれた三貴子(アマテラス、ツクヨミ、スサノオ)の一人である。

スサノオは海原を統治する役目を与えられたが、その粗暴な性格や言動から問題を引き起こすことが多かった。特に姉であるアマテラスと対立し、高天原で暴れたことにより、天岩戸隠れの事件を招いた。この結果、スサノオは高天原を追放され、地上へと降ることになる。

地上では、出雲地方で八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治し、その際にクシナダヒメを救って妻とした。さらに、ヤマタノオロチの尾から草薙剣(アメノムラクモノツルギ、後の草薙剣)を見つける。この剣は後に天皇家の三種の神器の一つとして伝わる重要な宝物となる。

スサノオは勇敢で荒々しい性格を持つ反面、慈愛や義理を重んじる一面もあり、農耕や文化の神としての側面も持つ。彼の行動や神話は、破壊と再生を象徴する存在として理解され、日本文化や信仰の中で深い影響を与えている。

小林永濯 著『鮮斎永濯画譜』初篇,錦栄堂(国立国会図書館デジタルコレクション)

一言主神(ヒトコトヌシノカミ)

一言主神(ヒトコトヌシノカミ)は、日本の神道における神である。一言で人々の願いや訴えに応え、その言葉には絶大な力があるとされる。古くから信仰の対象となり、特に一言の願いを叶える神として知られる。主に奈良県葛城市の高鴨神社をはじめ、一言主神を祀る神社が全国に点在する。

古事記や日本書紀には、一言主神が崇神天皇から深く畏れられたという記述がある。特に「己が悪しき心をも一言に言い表す」という自己認識の描写があり、この神が真実を一言で表現する力を持つ存在として捉えられている。

さらに、一言主神は姿を変える能力を持つとされる記述も見られる。たとえば、『古事記』や伝承の中では、狩猟の途中で出会った人物が後に一言主神であったことが判明するエピソードが語られる。この神は人間の姿をとって現れることができると信じられており、神秘的かつ超自然的な存在であることを象徴している。

一言主神は、神威の強さゆえに畏敬される一方、信仰者にはシンプルな願いをかなえる神として親しまれている。祈願の際には、願いを簡潔に伝えることが重要であるとされ、その一点集中の性質が神格を際立たせている。このように、一言主神は言葉の力、神秘的な存在感、そして形態変化の能力を通じて、古代から現代に至るまで多くの人々に崇められてきた神である。