AI時代のSNSでインフルエンサーは生き残れるのか?

近年、AI(人工知能)技術の進化は、人々の想像を超えるスピードで進んでいます。特に、まるで人間が書いたかのような自然な文章、描いたかのような精巧な画像、撮影したかのようなリアルな動画を生成するAIの登場は、人々の生活やビジネスに大きな衝撃を与えています。

そして、この革新的な波は、日々利用しているSNSや、華やかに見えるインフルエンサーマーケティングの世界にも、静かに、しかし確実に、変革の足音を響かせているのです──。

かつて、SNSは個人が情報発信し、影響力を持つための強力なツールでした。特に、数多くのフォロワーを持つインフルエンサーは、企業にとって魅力的なマーケティングパートナーであり、彼らを通じて商品やサービスを宣伝することは効果的な手法とされてきました。

しかし、AIの台頭により、この状況は大きく変わろうとしています。本記事では、AIがSNSやインフルエンサーにどのような影響を与えるのか、そして、これからの時代にインフルエンサーが生き残るためにはどうすればよいのかを考察していきます。

AIがもたらすSNSの変革とは?レッドオーシャンの拡大と競争の激化

AI技術の進化は、SNSにどのような変化をもたらすのでしょうか?ここでは、特に注目すべき3つのポイントについて解説します。

1. AIエージェントの参入による競争の激化

まず、AIが文章、画像、動画などのコンテンツを簡単に生成できるようになったことが挙げられます。これまで、人間が時間と労力をかけて作成してきたコンテンツを、AIは瞬時に、しかも大量に作り出すことができます。

これによって、コンテンツの供給量が爆発的に増加し、競争が激化することは避けられません。

さらに、AIはユーザー一人ひとりの興味関心に合わせて、最適な情報や広告を届けることも得意です。これは、パーソナライズ化の進化とも言えます。つまり、単にフォロワー数が多いだけでは、人々の注目を集めることが難しくなっていくのです。

言語の壁の消失、世界規模の競争へ

AIによる自動翻訳技術の進化も見逃せません。これまで、コンテンツは主に母国語で作成され、それぞれの言語圏で消費されてきました。しかし、AIが自然な翻訳を可能にすることで、言語の壁は取り払われつつあります。

これは、コンテンツが世界中で消費される可能性を意味します。つまり、これまで国内市場で活動していたインフルエンサーも、世界中のクリエイターやAIエージェントと競争しなければならなくなるのです。この結果、特定のテーマやジャンルにおける競争は、まさにレッドオーシャンと化すでしょう。

マイクロインフルエンサーの苦境

特に厳しい状況に置かれるのが、フォロワー数1万人(あるいは10万人)以下の、いわゆる「マイクロインフルエンサー」と呼ばれる人たちです。これまで、マイクロインフルエンサーはニッチな分野で一定の影響力を持ち、企業とのタイアップなどで収益を得てきました。

しかし、AIが大量のコンテンツを生成し、パーソナライズされた情報を提供するようになると、マイクロインフルエンサーの存在意義は薄れていく可能性があります。

大手インフルエンサーや、大規模なAI運用を行う企業に吸収されてしまうか、あるいは、SNS上での収益化が困難になっていくことが予想されます。これは、小規模なクリエイターにとって厳しい現実です。

しかし、見方を変えれば、AIによってコンテンツ制作のハードルが下がることで、新たな才能が台頭するチャンスとも言えるかもしれません。

インフルエンサーの価値はどこへ向かう?「集合知」としてのSNS

このような環境変化の中で、インフルエンサーの役割や価値はどのように変わっていくのでしょうか?

フォロワー数の価値の低下。エンゲージメント率の重要性

これまで、インフルエンサーの影響力を測る指標として、フォロワー数が重視されてきました。しかし、AIが大量のコンテンツを生成し、ユーザーの関心も細分化される中で、単にフォロワー数が多いだけでは、人々に影響を与えることが難しくなっていきます。

今後は、フォロワー数よりも、エンゲージメント率、つまり、投稿に対する「いいね!」やコメント、シェアなどの反応の割合が重要視されるようになるでしょう。具体的には、投稿がどれだけユーザーの興味を引き、行動を促したかを示す指標です。

これは、AIがユーザーの行動を分析し、エンゲージメントの高いコンテンツを優先的に表示するようになるためです。エンゲージメント率が高いということは、それだけユーザーの心に響くコンテンツを発信できている証拠であり、AI時代においては、この指標がインフルエンサーの真の価値を測る鍵となるでしょう。

さらに、フォロワーの中にAIや自動化されたボットが増えることで、フォロワー数の信頼性自体が低下する可能性もあります。

SNSは「集合知」へ。個から集合へのシフト

もう一つの大きな変化は、SNSが個人の発信の場から、「集合知」としての性格を強めていくことです。「集合知」とは、特定の個人ではなく、SNS上に存在する膨大なデータから見えてくる集合的な知やトレンドのことを指します。

これまで、SNSは個々のインフルエンサーが情報発信し、影響力を持つ場でした。しかし、AIが大量のデータを分析し、リアルタイムでトレンドを把握できるようになると、個々のインフルエンサーよりも、SNS全体のデータの傾向や動向が重視されるようになります。

たとえば、特定のキーワードが急上昇したり、特定の投稿が多くの人にシェアされたりする現象をAIが検知し、それをトレンドとしてユーザーに提示するようなイメージです。

このような変化により、マーケティングも、特定のインフルエンサーに依存する形から、SNS全体のデータを活用した、より効率的で最適化された形へと移行していくでしょう。

マイクロインフルエンサーの未来。吸収と代替の可能性

先に述べたように、マイクロインフルエンサーは厳しい状況に置かれています。彼らの多くは、大手インフルエンサーや、AIを駆使する企業アカウントに吸収され、代替されていく可能性があります。

これは、小規模なクリエイターにとって厳しい現実です。しかし、見方を変えれば、AIによってコンテンツ制作のハードルが下がることで、新たな才能が台頭するチャンスとも言えるかもしれません。

SNSの新たな役割とは?ビジネスから趣味、コミュニティへ

AIの影響で、ビジネスとしてのSNS運用が難しくなる一方で、SNSの役割はどのように変化していくのでしょうか?

趣味やコミュニティ中心の場へ

商業的な価値が低下する中で、SNSは特定の趣味や興味を共有する人々のコミュニティとしての役割を強めていくと考えられます。

たとえば、同じ趣味を持つ人々が集まり、情報交換や交流を行う場としての利用が増えるでしょう。これはある意味、SNS本来の機能を取り戻すといった側面もあるかもしれません。

プライベートなコミュニケーションツールへ

また、SNSは友人や家族との日常的なコミュニケーションツールとしての側面も強まるでしょう。写真や動画を共有したり、近況を報告したりといった、よりプライベートな用途での利用が増えると予想されます。

AI時代を生き抜くための戦略。インフルエンサーの新たな道とは?

ここまで、AIがSNSやインフルエンサーに与える影響について考察してきました。では、これからの時代にインフルエンサーが生き残るためには、どのような戦略が必要なのでしょうか?

差別化戦略。AIには真似できない「個性」を磨く

まず重要なのは、AIには再現できない、人間ならではの要素を強化することです。たとえば、独自の視点や価値観、ストーリー性など、AIが生成するコンテンツでは表現しにくい部分に注力するのです。

また、リアルタイムでの交流や、共感を生み出すようなコミュニケーションも重要です。AIは膨大なデータを処理できますが、人間のように感情を理解し、共感することはまだ得意ではありません。インフルエンサーは、この点を活かして、ファンとの強い絆を築くことが求められます。

さらに、特定の分野に特化することも有効な戦略です。グローバルな競争が激化する中で、広い分野で戦うよりも、ニッチな分野で専門性を高め、独自の地位を築くことが重要です。

とはいえ、AIが人間の感情を完璧に理解し、それを模倣し、共感を得られるようなコンテンツを生成するのも時間の問題かもしれません。

プラットフォームの多様化。リスク分散と新たな可能性

SNSだけに依存するのではなく、複数のプラットフォームを活用することも重要です。たとえば、YouTubeで動画コンテンツを配信したり、ポッドキャストで音声コンテンツを提供したり、有料のニュースレターを発行したりといった方法が考えられます。

また、Web3(分散型ウェブ)技術を活用した、新しいプラットフォームにも注目が集まっています。これらのプラットフォームでは、ユーザーが自分のデータを管理し、コンテンツの収益化方法を自分でコントロールできる可能性があります。

このように、複数のプラットフォームを活用することで、リスクを分散し、新たな可能性を広げることができます。

特にこれからの数年はプラットフォームの閉鎖や新規リリースが目立ってくると思います。どれほど有名なプラットフォームであろうと、閉鎖されてしまえばコンテンツは失われてしまうので、思い当たる節がある方はしっかりとバックアップは取っておきましょう。

AIを味方につける。ツールとしての活用

AIを敵視するのではなく、味方につけることも重要です。AIツールを使いこなすことで、コンテンツ制作の効率化や、データ分析、マーケティング戦略の最適化などを図ることができます。

たとえば、AIを使って動画の字幕を自動生成したり、複数のSNSへの投稿を自動化したり、AIによるデータ分析を活用してファンの属性や興味関心を把握したりといった活用方法が考えられます。

さらに、AIを使って新しいコンテンツのアイデアを生み出したり、デザインのインスピレーションを得たりすることもできるでしょう。

これらのツールはあくまでも、人間の能力を拡張し、効率を高めるためのものであり、人間がよりクリエイティブな作業に集中できるようになります。つまり、インフルエンサーはAIという新たな武器を手にしたということを意味します。

オフラインとの融合。デジタルとリアルの融合

最後に、オンラインだけでなく、オフラインでの活動も重要です。たとえば、ファンとの交流イベントを開催したり、オリジナルグッズを販売したり、ワークショップやセミナーを開催したりといった方法が考えられます。

デジタルとリアルを融合させることで、ファンとの絆を深め、より強固なコミュニティを築くことができます。また、オフラインでの活動は、AIには代替されにくい、人間ならではの価値を提供する方法でもあります。

AI時代のSNSは変化の時、新たな可能性も

AI技術の進化は、SNSやインフルエンサーマーケティングの世界に大きな変革をもたらしています。競争の激化やフォロワー数の価値の低下など、厳しい現実もあります。しかし、それは同時に、新たな可能性の始まりでもあります。

AIには真似できない「個性」を磨き、複数のプラットフォームを活用し、AIツールを味方につけ、オフラインとの融合を図る。これらの戦略を駆使することで、インフルエンサーはAI時代を生き抜き、新たな価値を創造することができるでしょう。

これからのSNSは、単なるビジネスの場ではなく、趣味やコミュニティ、そして「集合知」としての性格を強めていくと考えられます。

その中で、インフルエンサーは、人々に共感や感動を与え、コミュニティを活性化させる、いわば触媒ファシリテーターのような存在として、新たな役割を担っていくのではないでしょうか。AIの台頭は、インフルエンサーにとって脅威であると同時に、自身の価値を再定義し、進化を遂げるためのまたとない機会なのです。

AI時代のSNSは、まさに変化の時を迎えています。この変化をチャンスと捉え、新たな可能性に挑戦していくことが、これからのインフルエンサーには求められています。あなたも、この変化の波に乗り、AI時代のSNSで、新たな価値を創造してみませんか?

もっとも僕は「SNSによるデメリットのほうが大きい」と感じたために、すでにXやInstagramといったプラットフォームから離れてしまいましたが。