TVアニメ「チ。 ―地球の運動について―」は、15世紀のヨーロッパを舞台に、地動説を証明することに自らの信念と命を懸けた者たちの物語である。
以下、ストーリーにおける重要なネタバレに関する内容を含むため、注意されたい。
第5話の落下シーン
※左がグラス、右がオクジー(C)魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について─製作委員会
第5話では、グラスとオクジーという男2人が異端者の言葉に感化され、命がけでの行動を取る様子が描かれている。彼らは、山奥で異端者が残した古びた石箱を発見──。この石箱には、天文学に関する重要な資料が含まれており、グラスはそれを禁忌思想を持つ修道士に届けることを決意する。
問題のシーンは、地動説に関する重要な知識や思想が書かれたものと思われる「一冊の本」を修道士に届ける道中にある。
2人は、以下のような石造りの橋を渡っていた。
しかし、突然、橋の一部が崩落し、グラスが落下──。それをオクジーが咄嗟の判断で掴み、落下を防いでいるという構図だ。
このとき、オクジーは、一本のツタを片手で握り、もう片方の腕でグラスを支えている。よく見ると、両足も橋の壁面に接しているからそう無理な体勢ではないように思える。
しかし、ここからが問題なのだ。
彼らは、その後、こうなり──。
グラスはこの様になる。
ここからは、この状況とその後の展開における現象を物理学的観点から考えていきたい。
橋とツタ
「チ。 ―地球の運動について―」の舞台は、15世紀前半の中世ヨーロッパ。ポーランドをモデルにしたP王国では、キリスト教が国教として深く根付いていた。教義に背く者は異端とされ、厳しい迫害を受けていた──。
まずは、この時代背景から、橋の材質と、橋に生えているツタについて見ていきたい。
橋の材質
15世紀頃のポーランドで建設された石橋は、多くの場合、以下のような材質が用いられていた。
- 石灰岩 (Limestone):ポーランドでは多くの石灰岩が採れるため、中世の建築にはよく用いられていた。石灰岩は加工がしやすく、また耐久性もあるため、橋の材料として適している。
- 砂岩 (Sandstone):砂岩もポーランドで豊富に採取でき、石灰岩と並んで橋や城壁などの建築材に使われた。耐水性が高いため、雨風にさらされやすい橋には適した素材と言える。
- 花崗岩 (Granite):花崗岩は非常に硬く、耐久性があるため重要な構造部分に使われることが多いが、加工が難しいため、橋全体ではなく一部に使われた可能性がある。
橋の形状や大きさに応じて、石を積み上げてアーチ状の構造を作ることが多く、15世紀の橋ではこのようなアーチ構造が一般的である。問題のシーンの橋も、中央にアーチを描いた構造で、当時の建築技術に適した形と言える。
ツタの詳細
橋に生えているツタについては、以下の植物が考えられる。
- ツタ (Ivy, 学名: Hedera):ヨーロッパに広く自生している植物で、壁や橋などの構造物に絡みつく性質がある。ツタは耐寒性が高く、ポーランドの寒冷な気候にも適応している。石造りの建造物に生えて自然の風合いを増すため、古い橋にはよく見られる。
- スミレ (Viola) や ツル性のシダ植物:他にも橋に自生しやすい植物としてスミレや一部のシダ植物が考えられるが、主に緑色のツタが最も見られやすい。
ツタの影響としては、植物が石材に根を張ることで微小な亀裂が発生するリスクもあるが、逆にツタが石材を保護し、湿気や日光からの劣化を防ぐ効果もある。
なぜ橋の崩壊が起きたのか?
橋の崩壊の要因を考えるにあたり、まずは、オクジーとグラスの身長と体重を概算で見てみよう。
オクジーとグラスの身長・体重
AI(Claude 3.5 Sonnet)には、2人の外見を伝えるため、2枚の画像を見せた。
画像は暗く、不明瞭ではあるが、AIは以下のように回答を導き出した。
>15世紀のポーランド人男性の平均的な身体データを基に、画像の2人の体格を推測する。
>15世紀のポーランド人男性の平均身長は約165-170cm程度だったとされている。当時の栄養状態や生活環境を考慮すると、現代より全体的に小柄だったと考えられる。
>画像から判断すると、以下の通りである。
>オクジー:
>身長:おそらく175-180cm程度
>体重:75-80kg程度
>特徴:平均より背が高く、がっしりとした体格。
>グラス:
>身長:170-175cm程度
>体重:65-70kg程度
>特徴:当時の平均よりやや背が高く、標準的な体格。
橋の崩壊メカニズムを物理学的に分析
前提条件
人物の体格(先ほどの推定):
- オクジー: 175-180cm、75-80kg
- グラス: 170-175cm、65-70kg
石橋の材質と特性:
- 石灰岩の場合:
- 圧縮強度:20-100 MPa
- 密度:2,300-2,700 kg/m³
- 砂岩の場合:
- 圧縮強度:20-170 MPa
- 密度:2,000-2,600 kg/m³
画像から観察される崩壊パターン:
- 橋の中腹部分で直線的な破断
- クリーンな切断面
- 局所的な崩壊
以下、複雑な計算式が続くため、退屈な箇所は省き、重要な事実のみ記載する。なお、筆者は物理学を未履修のため検証ができない。
崩壊パターンの要因
5. 結論:
このような崩壊パターンは、以下の要因が組み合わさって発生したと考えられる。
- 既存の構造的弱点(亀裂や劣化)
- 2人の体重による動的荷重
- 経年による材料強度の低下(可能性として水による劣化)
特に注目すべきは、破断面の直線性である。これは単純な重量負荷だけでなく、既存の構造的弱点に沿って破壊が進行したことを示唆している。2人の体重自体は橋の設計強度から見れば十分に耐えられる範囲だが、上記の要因が重なったことで局所的な崩壊が発生したと考えられる。
橋が崩壊する確率を計算
この崩壊現象の確率を計算するためには、いくつかの重要な確率変数を考慮する必要がある。
1. 構造的前提条件:
- 15世紀の石橋の平均寿命: 400-600年
- 経年劣化による強度低下: 年0.1-0.5%
- 天候による劣化: 年0.2-0.8%
つまり、このような特定の崩壊パターンが発生する確率は約0.14%、言い換えると約700分の1程度となる。
この確率は以下の要因によってさらに変動する可能性がある。
- 橋の具体的な構造設計
- 実際の経年劣化の程度
- 過去の補修歴
- 地質条件
- 気候変動の影響
約0.14%(約700分の1)の確率で起きる具体例
以下は、約0.14%(約700分の1)の確率で起きる具体例を分かりやすく示したものである。
- 年間の航空機遅延率が0%になる
- 全く同じ宝くじ番号が数年後に再び当選する
- 同じ自動車に2度の雷が落ちる
- 3本の虹(トリプルレインボー)が観測される
- カジノのルーレットで10回連続で同じ数字が出る
したがって、このような特定のパターンでの崩壊は非常にレアなケースと言える。通常の橋梁崩壊は、もっと不規則なパターンを示すことが多いためである。
ただし、この計算はあくまでも概算であり、実際の状況では様々な追加要因が影響する可能性があることに注意が必要である。
一冊の本を介してグラスを支えているシーンの検証
続いて、2人を繋いでいる本に注目したい。以下のシーンをもう一度ご覧いただきたい。
よく見ると、オクジーは一冊の本を介してグラスの全体重を支えている。ここには果たしてどのような力が加わっているのか──。
オクジーとグラスの握力、および本の材質を物理学的に分析
3. 必要な握力の計算:
- 片手あたりの必要握力: 1,050-1,150N(102-136kg)
- 通常の成人男性の最大握力: 300-600N
- 緊急時のアドレナリン分泌による力の増加: 1.5-2倍
- 理論上必要な握力: 450-900N
通常の成人男性の最大握力:
- 平均: 40-50kg
- アスリート: 60-80kg
- 記録保持者クラス: 90-100kg
一般的に、リンゴを握り潰せる握力は約80kg(約784N)とされている。よって、オクジーとグラスの2人は「リンゴを楽に握り潰す握力」を有していると考えられる。
緊急時のアドレナリン分泌による筋力ブーストを考慮したとしても、この数値は例えるなら、冷蔵庫や洗濯機のような大型家電を片手で支えるような、あるいは記録保持者クラス以上の力に匹敵する。
この状況が成功する条件は以下の通り。
- 本の総合強度 > 2,300N
- 握力 × 摩擦係数 > 必要保持力
- 衝撃吸収能力 > 運動エネルギー
結論、15世紀の高品質な製本技術で作られた本であれば、理論上は可能である。特に以下の条件が揃えば、約0.5-1%の確率で実現可能と計算される。
- 厚い革表紙
- 麻糸による堅牢な背縫い
- 高品質な羊皮紙
- 膠による確実な接着
これらの条件がただし、これは極めて理想的な条件下での計算であり、実際にはさらに低い確率になると考えられる。
結論:救助成功確率とリスク
オクジーとグラスの2人は人間の通常の能力を大きく超えており、以下の付加条件がないと、この状況の実現は極めて困難である。
- 本の構造による衝撃吸収が予想以上に効果的
- 落下距離が実際にはより短い
- 他の要因(衣服や体の他の部分による補助)が働いている
このような極限状況での救助が成功する確率は、上記の計算に基づくと0.01%以下と推定される。
実際には、このような状況では、以下のリスクが極めて高いと考えられる。
- 深刻な筋肉損傷
- 関節の損傷
- 神経損傷
足で支えるオクジー、ペンダント1本で宙に浮くグラス
続いて、次のシーンに移りたい。自ら手を放し、落下しようとしたグラス──。しかし、ここでオクジーは、グラスの首にかけてあったペンダントに足で引っかける形でこれを防いだ。ここには一体どのような力が働いていたのだろうか。
グラスの首への負担を物理的・人体工学的に分析
1. 首への負担と危険性:
- グラスの体重を70kgとすると、首に瞬間的に加わる力は重力加速度(9.8m/s²)により約686N
- 人間の頸椎が耐えられる垂直方向の最大荷重は約3400N程度
- しかし、突発的な落下による衝撃で瞬間的に2-3倍の負荷がかかる可能性があり、深刻な頸椎損傷のリスクが非常に高い
- 頸動脈への圧迫により意識喪失のリスクも存在
首にかかる負荷(686N)の例は、以下の通りである。
- 20Lのポリタンク(約20kg)を首で支える力
- 中型犬(ラブラドール)を首で支える力
- 通常のリュックサック7個分の重さ
突発的な衝撃(2-3倍: 約2000N)を想定した場合では、以下のような例が挙げられる。
- 2mの高さからの着地時の衝撃
- ラグビーのタックルでの衝撃
- 自転車での急ブレーキ時の衝撃
いずれにせよ、グラスの頸椎へは多大な負担がかかったことが分かる。それはこういう顔にもなる。
2. ペンダントの紐の要件:
- 最低でも1000N以上の引張強度が必要
- 適切な素材の例:
- 編み込みナイロンコード (引張強度約2000-3000N)
- 革紐(厚さ3mm以上、引張強度約1500N)
- 麻紐(直径5mm以上、引張強度約1800N)
紐の引張強度(1000N)の比較:
- 一般的なショッピングバッグの持ち手(200-300N)の約3-5倍
- スーツケースの持ち手(500-700N)の約1.5-2倍
- 登山用ザックのショルダーストラップ(2000-3000N)の半分程度
3. 支える側(オクジー)の負担:
- つま先立ちの状態で片足で全体重+相手の体重を支える必要がある
- 大腿四頭筋にかかる負担は通常の3-4倍
- ツタの引張強度が不確実な要素となる
- 人間の最大筋力の限界を超える可能性が高い
オクジーの筋力負担を分かりやすく考えてみる。
通常の片足スクワットでの筋力負担が体重の1-1.5倍であるのに対し、この状況下では体重の3-4倍にあたる。これは、以下のような例と同程度である。
- 体重70kgの人を背負って片足で立つ
- 米袋(30kg)を3袋持って片足で立つ
- 中型の冷蔵庫を片足で支える
控えめに言っても、このとき、オクジーは尋常ならざる力を発揮している。もはやクソを漏らしても不思議ではない。
しかも、これを支えているのは橋にたまたま生えていた一本のツタである。オクジーもすごいが、ツタもすごい。
総合的なリスク評価
- 頸椎損傷の確率: 約70-80%
- ペンダントの破断確率: 素材による(革紐の場合90%以上)
- 支える側の筋力限界超過: 約95%
- 全体的な成功確率: 10%未満
それぞれの危険性を分かりやすい例で比較してみよう。
- 頸椎損傷(70-80%)
- 交通事故での首の損傷率と同程度
- プロボクシングでの強打を受けた際の損傷率を上回る
- ペンダント破断(90%)
- 一般的な紐が重い荷物で切れる確率と同程度
- 筋力限界超過(95%)
- オリンピック重量挙げ選手でも困難なレベル
- 全体的な成功率(10%未満)
- サイコロを振って指定の目を2回連続で出す
- 満杯のコップを目をつぶって運び、こぼさない
- 自転車で手放し運転をしながらスマートフォンをキャッチする
想像しやすい具体的な状況の例
この状況を具体的な例を用いて想像すると以下のようになる。
- オクジーは、片足でバランスを取りながら、
- 重い冷蔵庫を持ち上げようとする状態で、
- 首に重いリュックが7個ぶら下がっているグラスを、
- 細いロープ1本で支えている
神業である。
グラスがどのような体勢であれば成功確率が上がるか?
画像のような体勢では、高確率でグラスの頸椎が甚大なダメージを受け、また、オクジーの筋力的負担もオリンピック重量挙げ選手でも困難なレベルに達してしまう。
この状況において、グラスがどのような体勢であれば、成功確率を上げられるかもAIに聞いた。以下が得られた回答である。
- グラスの体の向き:壁に対して45度の角度
- 首の角度:やや後ろに反った状態(30度程度)
- 手:壁を掴んで体重を分散
- 足:壁に対して蹴り出すような体勢
手で壁を掴むことは困難であると思われるため、結論から言うと、グラスが以下のような体勢で宙に浮かべばよい。
ペンダントの切断シナリオ検証
最後に、グラスが自らペンダントの紐を指で切断するシーンだが、これは思いの外、現実的な数値が導き出された。最も、オクジー同様、世界記録保持者レベル以上の握力(102-136kg)を持つグラスにとっては造作もない行為ではあるが。
5. 成功確率:
- 理想的な条件下: 95%
- 通常条件下: 85%
- 最悪条件下: 60%
6. 考慮すべき要素:
- 切断角度: 45度が最適
- 爪の当て方: 紐の繊維に対して垂直
- 力の入れ方: 急激ではなく徐々に
- 手の位置: 首から30cm以内
この状況では、複数の要因が重なることで、通常では切れにくい強度のペンダントでも、比較的確実に切断できる可能性が高くなる。特に、既に体重がかかっている状態で追加の力を加えることで、必要な力が通常より少なくて済むことが重要なポイントとなる。
ただ、何度も言うように、102-136kgという圧倒的な握力を有するグラスにとっては、指でペンダントを切断するなど赤子の手をひねるに等しい行為である。
結論
以上で、TVアニメ「チ。 ―地球の運動について―」第5話の落下シーンの検証は終了である。計算には、Claude 3.5 Sonnetを用いた。
このシーンは、ストーリーの進行に深く関わる、シリアスで重要な場面である。──であるがゆえに、オクジーとグラスの握力、本の材質、ツタの詳細、グラスへの頸椎への負担などが気になって作品に集中できなかった。
AIを用いた検証によって、この状況の再現可能性は少なくとも0.01%以上はあると判明したので、これでやっと作品を集中して観ることができる。いや、しかし何度見てもこの本に両端から100kg以上の握力が加わっているようには見えない。
それにしても、筆者がまったく理解できない物理の世界を、身近な分かりやすい例を用いて教えてくれるAIはやはり優秀である。
「チ。 ―地球の運動について―」は、天文学はもちろん、哲学的な要素も含まれているため、とても楽しみながら視聴することができている。知識の変革や信念の重要性、そして異端者たちの苦悩を描いたドラマティックなストーリーには、今後も目が離せない。