声優業界の「NOMORE無断生成AI」から考える、AI音声合成技術の進化とその影響

近年、AI技術の発展に伴い、特に「AI音声合成技術」による声優業界への影響が大きな話題となっています。声優の「声」は商売道具であり、職業的なスキルの結晶です。しかし、AI技術の進歩により、声優の声を模倣することが容易になりつつあることもまた事実──。この状況に対し、声優たちは強い懸念を抱いています。

今回は、声優26名が異議を唱える「NOMORE無断生成AI」の第一弾として公開された動画を基に、AI音声合成技術が声優業界に与える影響や、今後の課題について考察していきたいと思います。

『NOMORE無断生成AI』声優有志の会

X:https://x.com/NOMORE__MUDAN
Tikitok:  / nomore_mudan  
Website:https://nomore-mudan.com/

【本件に関するお問合せ先】
nomore.mudan@gmail.com
※本件に関して出演者各事務所へのお問合せ、ご連絡はご遠慮ください。

【私たちの想い】

私たちがやった覚えのない朗読や歌、そして声そのものが、ネット上に公開され、時に販売されています。
私たちの声は商売道具であり、人生そのものであり、共に成長してきた大切な自分自身の一部です。
「この声をもっと聞きたい」と思ったファンがやってくれたことだとしても、無断で使われるのは、気持ちの良いものではありません。
新しい技術は、これから私たち人間に大きな恩恵を与えてくれるでしょう。
でも同時に、お互いの気持ちや、未来の文化のあり方まで視野を広げて、議論を重ね、みんなで技術の使い方を考えていきたい。そのきっかけとなるように、この動画を作りました。
傷つけ合う言動の応酬ではなく、平和的な認識のすり合わせのための議論を有識者も交えて行い、文化的なルール作りをしていきましょう。
10年後20年後もずっと、良い作品を生み出す土壌を枯れさせないために。

【私たちの定義する「無断生成AI」とは】

実演家、著作権者の許諾なく、無断で追加学習、生成、公開されたAI生成物のこと。2024年10月現在の法律では「情報解析のための学習」「非享受目的の学習」は著作権法の範囲外とされていますが、追加学習は議論が分かれます。
誰の声か、誰の表現かということがわかるAI生成物は、著作権だけでなく人格権にも抵触する可能性があります。
そして、悲しみ傷つく人がいます。
このことを多くの人に知ってもらいたいと思っています。

AI音声合成技術の現状

AI音声合成技術とは、人工知能を活用して、人間の声を模倣・生成する技術です。特にディープラーニングを基盤とした技術が進化し、音声合成のクオリティは飛躍的に向上しています。従来、機械音声のように単調で不自然だった合成音声も、現在では自然な抑揚や感情表現が可能となり、そう遠くない未来、声優による本物の声と遜色ないレベルに達することも十分に考えられるでしょう。

こうした技術の進展により、AIが生成する「声」はさまざまな用途に活用されつつあります。ナレーションやゲームキャラクターの音声、アシスタントアプリでの音声案内など、多くの分野でAI音声が使われ始めています。このような状況で、声優業界はどのような課題に直面しているのか──。

声優業界への影響

声は声優の「財産」である

声優にとって「声」は単なる音声ではなく、職業的なスキルの集大成であり、長年にわたる努力の結晶です。たとえば、山寺宏一さんは、自身の声が「商売道具」であり、「人生そのもの」だと強調しています。しかし、AI技術が進化し、その声を模倣されることに対しては、声優たちから強い懸念が示されています。

AIが声優の声を模倣し、それが商用利用されることが現実となれば、声優たちの権利が侵害される恐れがあります。特に、AI生成音声が無断で使用され、収益が発生する場合、声優たちの権利を守るための法的枠組みが現行では十分に整備されていません。

無断利用と法的問題

AIによる音声合成技術の普及により、声優の声が無断で使用されるリスクが高まっています。現行の著作権法では、音声そのものに対する法的保護が不十分──後ほど詳しく解説──なため、声優たちは法的に弱い立場に置かれているんですね。

特に、AIが生成した音声が本人の声に酷似している場合でも、現行法ではその音声が違法かどうかを明確に判断する基準が曖昧──。この点で、著作権法の見直しや新たな規制が必要とされています。しかし、技術の進化に対して法整備が追いつかない現状では、AIによる無断利用を完全に防ぐことは難しいのが現実です。

AIによる声と演技の模倣

AI技術がさらに進化すれば、声だけでなく、声優の「演技」も模倣される可能性があります。AIは膨大なデータをもとに学習し、感情表現や抑揚といった演技力も再現可能になるでしょう。つまり、AIが生成する音声は、ますます声優による本物の声に近づいていくと考えられます。

ただし、AIが声優の演技を模倣した場合、それが「盗まれた」と言えるのかという点については議論の余地があります。AIは特定の声優の演技を模倣するのではなく、複数のデータを基に新たな演技を生み出すため、著作権侵害と見なすことは難しいかもしれません。このように、AIによる声と演技の模倣は、法的に解決が難しい課題を生む可能性があります。

音声のみの利用が保護の対象外──?

日本の現行の著作権法において音声のみの利用が保護の対象外とされる理由は、主に著作権の適用範囲とその解釈に関連しています。

著作権法の基本的な枠組み

日本の著作権法は、著作物の保護を「著作者の権利」と「隣接権」に分けて定義しています。著作物には文学、音楽、美術などが含まれますが、音声のみの利用に関しては、特定の条件を満たさない限り、著作権の保護対象外とされているのです。

音声の利用に関する特例

音声のみの利用が保護の対象外となる背景には、以下のような要因があります。

  • 著作物の定義: 日本の著作権法では、著作物は「創作的表現」を必要とする。音声が単独で存在する場合、それが創作的な表現と見なされないことが多い。例えば、単なる音声録音や音声データは、創作性が認められない場合がある。
  • 隣接権の適用: 音声に関連する隣接権は、音楽や演奏などの特定の表現に対して適用されるが、音声そのものが独立した著作物として認められない場合、これらの権利も適用されない

法改正の動向

最近では、著作権法の改正が進められており、特にデジタルコンテンツや生成AIに関連する議論が活発です。これによって、音声の利用に関する規定も見直される可能性がありますが、現時点では音声のみの利用は依然として保護の対象外とされています。

このように、日本の著作権法における音声の扱いは、法的な枠組みや解釈に基づいており、今後の法改正によって変わる可能性もありますが、現状では音声のみの利用は保護されていないのが実情です。

声優業界を守るための対策

AIと共存する道

声優業界がAI技術の進化に完全に抵抗することは現実的ではありません。中尾隆聖さんも指摘するように、AI技術の進化は避けられない現実です。そのため、AIと共存するための方法を模索する必要があると言えるでしょう。

たとえば、AIが利用した音声データに対して適切な収益分配を行う仕組みが考えられます。AIによって生成された音声がどの声優の声に基づいているのかを追跡し、利用に応じた報酬を声優に還元するシステムが構築されれば、声優の権利をある程度守ることができるでしょう。──ただし、これも実現は難しそうですが。

新たな法的枠組みの整備

また、声優の声や演技を法的に保護するためには、何より、現行の著作権法の見直しが必要です。音声に関する権利保護を強化し、AIが生成した音声に対しても適切な規制が設けられることが求められます。

さらに、AI音声合成技術の利用には倫理的な問題も伴います。無断で声を模倣し、それを商用利用する行為は、倫理的にも大きな問題です。したがって、AI技術の利用には、法的な規制だけでなく、倫理的なガイドラインも必要と言えるでしょう。

まとめ

AI音声合成技術の進化は、声優業界に大きな影響を与えています。声優の声や演技がAIによって模倣されるリスクが高まり、無断利用や著作権侵害の問題が浮上しています。現行の法制度では、こうしたリスクに対する十分な対策が整備されていないため、今後の技術進化に合わせた新たな法的枠組みの構築が急務です。

同時に、声優業界はAI技術と共存する道を模索し、声優の権利を守りつつ、AI技術を活用する新たなビジネスモデルの構築も必要でしょう。AIと声優がどのように共存し、どのような未来を築くのか、今後の動向に注目が集まります。