「人間は"自分も含めて"バカである」と知ることの重要性

僕は「人間が、自分自身も含め、根本的に愚かな生き物である」と考えています。

ただし、この考えは、虚無主義ニヒリズム悲観主義ペシミズムというより、むしろ現実主義リアリズムに近い──ショーペンハウアーより、ソクラテス的な──ものかもしれません。

つまり、「自分が無知であると知ることは、無知であると知らないことよりも優れている」といった、ソクラテスの「無知の知」のような意味で、です。

現代の認知心理学や神経科学では、人間の行動の多くが無意識的によって決定される、という考え方が主流となっています。

これは、人の行動や意思決定はその大部分が自動実行(スクリプト)で動いている、と捉えることもできるでしょう。

分かりやすく言うならば、「いつもの自分が、いつもの状況において、いつも行っている言動や行動を、自動的に、いつでもどこでも選択してしまう」ということ。

人間は、言わば「思い込みの塊」のようなもので、合理的な判断よりも、常識、偏見、先入観、慣習などを根拠として判断する傾向にあります。

例えば、確証バイアス(既存の信念を支持する情報だけを探し、受け入れる傾向)、利用可能性ヒューリスティック("思い出しやすさ"をもとに判断する傾向)、ステレオタイプ(社会的偏見や先入観による判断)、ダニングクルーガー効果(正しい自己評価ができずに自分を過大評価する傾向)など──、様々な認知バイアスが人間の判断を歪めることが知られています。

特に「精神疾患を持つ人々の犯罪率は一般の人と比べて高い」や「自動車事故の発生確率は若者よりも高齢者のほうが高い」といった誤解は、いかに人間がバイアスによって誤った認識をしているかの良い例と言えます。

実際には、犯罪に関与する精神疾患を持つ人々の割合は、一般的な認識よりもずっと低く、むしろ犯罪を犯すよりも犯罪の被害者になる可能性が高いとされています。

また、自動車事故についても、特定のグループ──若者や高齢者など──が事故を引き起こす割合が高いというのも思い込みの一つと言えるでしょう。

それぞれの認知バイアスの実例は、Twitterを覗いてみるとすぐに発見できます。ある考えや思想に執着し、極端な見方・発言・発想・行動をする人間がどれほど多いことか。演説を得意とし、議論のできない人間がどれほど多いことか。

ネガティブな情報や偏った主張は目にするだけで認知に歪みを与える要因となる可能性があるので、SNSの利用は十分に注意する必要があります。──少なくとも僕は「SNSどころか、ニュースを見ることもやめたほうがいい」という意見ですが。

人間は確かにバイアスに影響されやすい存在ですが、こういった認知バイアスがあると知っているだけでも、合理的な判断を下すための大きな助けとなります。

他人のことをバカだと罵ったり、陰口を叩いたり、人を見下して優越感や安心感を得たりする行為は、人によっては"簡単"で"気持ちの良いもの"に思えるものなのかもしれません。

しかし、実のところそれは「自分は、バイアスに支配され、合理的な判断ができない真のバカです」と公言しているようなものです。

人間は、自分自身も含めて、根本的にバカである──。まずはこのことを理解し、受け入れることが第一歩なのだと思っています。

ただし、現状を受け入れることと卑屈になること、謙虚であることと自分を卑下することは違う、というのは常に忘れないでおきたいものです。

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