「あれ? さっきここに置いたはずの鍵がない……」「メモに書いた大事な予定をすっかり忘れてた!」
こんな経験、誰にでもあるのではないでしょうか? 日常生活でありがちな「うっかり」も、ADHDの人にとっては深刻な問題になることがあります。
それは、情報が背景化してしまう現象です。
ADHDを持つ人にとって、日常生活で重要な情報が「見えなくなる」この現象は、生活に大きな影響を与えます。
この記事では、情報の背景化が起こる原因と、それに対する7つの効果的な対策を詳しく解説します。
ADHDと情報の背景化とは
ADHDについて
ADHD──注意欠陥・多動性障害──は、不注意、多動性、衝動性を特徴とする発達障害です。ADHDの人は、注意力の持続が難しく、集中力も途切れやすい傾向があります。
情報の背景化とは
情報の背景化は、ADHDの特性の一つで、視界に情報が入っているにもかかわらず、脳がそれを認識せず、背景の一部として処理してしまう現象を指します。
つまり、「見えているのに見えていない」状態になるんですね。
例えば、重要な予定を書いたメモを冷蔵庫に貼っておいたのに、まったく気づかずに予定を忘れてしまう、といったことが起こります。
ADHD対策に、よく、「張り紙しておけばいいじゃない。」というアドバイスを見かけるのだけれど、
健常者の方は、想像もつかないだろうけれど、
そして、あまり堂々と言っていいことじゃないと思うけれど、
張り紙が景色と同化してしまって見えなくなる現象が時々起きる。
#ADHDあるある
Sakurako (@sakurako_iroha)
発達障害の人に「見え方」の質問なんですが「全体に気づかない」傾向あると見え方って2枚目みたいになりませんか?全体を見るためには3枚目のように視点を動かさないと見れないんですが、これ俺だけなのかな
🌙不注意おとこ@発達障害 (@autis33)
なぜ情報が背景化するのか
情報が背景化する主な理由は以下の3つです。
- 刺激の強さに反応: ADHDの脳は、強い刺激に優先的に注意を向ける傾向がある。そのため、新しい情報や変化には敏感に反応しますが、日常的な情報は無視されやすくなる。
- 作業記憶の弱さ: 作業記憶とは、情報を一時的に保持し処理する能力のこと。ADHDの人は、この作業記憶が弱い傾向がある。そのため、視界に入っている情報をすぐに忘れてしまい、結果として背景化してしまう。
- 慣れ: 日常的に目にする情報は、次第に脳が「重要ではない」と判断し、無視されるようになる。これは、脳が効率的に機能しようとする結果でもあるが、ADHDの人の場合、この「慣れ」が起こるスピードが速い傾向がある。
背景化しやすいもの
以下のものは特に背景化しやすいです。
- ホワイトボード: 常に目に入る場所にあるため、次第に存在自体が認識されなくなる。
- 付箋: 小さくて目立たなくなりやすく、時間が経つと背景の一部になってしまう。
- リマインダー: スマートフォンなどのデジタルリマインダーも、頻繁に表示されると無視されやすくなる。
- 張り紙: 壁や冷蔵庫に貼った重要な情報も、時間とともに目に入らなくなる。
- メモ: デスクに置いたメモも、他の物に埋もれたり、存在を忘れたりしやすい。
僕の場合、上記すべてが当てはまります。
情報の背景化を防ぐ7つの効果的な対策
それでは、情報の背景化を防ぐための7つの効果的な対策を、具体例を交えて詳しく見ていきましょう。
1. 物理的に目立たせる
情報を物理的に目立たせることで、脳に「これは重要だ」というシグナルを送ることができます。
具体的な方法:
- 鮮やかな色の付箋やメモを使用する: 例えば、重要度に応じて色分けをする。最重要な情報は赤、次に重要なものは黄色、といった具合に。
- 重要なメモは目立つ場所に置く: 玄関のドアや冷蔵庫など、必ず目に入る場所を選ぶ。
- 文字の大きさや形を変える: 重要な情報は大きな文字で書いたり、太字にしたりする。
- 手書きのメモを活用する: 手書きは脳に強い印象を与えるため、記憶に残りやすくなる。
例:明日の重要な会議の予定を忘れないようにするには、赤い付箋に大きな文字で「明日10時 重要会議」と手書きし、玄関ドアの目の高さに貼っておく。
2. 行動と結びつける
情報を具体的な行動と結びつけることで、記憶に残りやすくなります。
具体的な方法:
- メモをタスクと関連付ける: 例えば、「ゴミを出す」というメモと一緒にゴミ袋を玄関に置いておく。
- スマホのロック画面にメモを表示する: スマホを見るたびに重要な情報が目に入るようにする。
- アラームと組み合わせる: 重要な予定の時間にアラームを設定し、アラーム音と共に予定の内容を表示させる。
例:薬を飲み忘れないようにするには、朝食の際に使うコーヒーカップの横に薬を置いておく。これにより、コーヒーを飲むという日常的な行動と薬を飲むという行動が結びつく。
3. 定期的に見直す
情報を定期的に見直すことで、新鮮さを保ち、背景化を防ぐことができます。
具体的な方法:
- メモを定期的に整理する: 週に一度、すべてのメモを見直し、不要なものは捨て、重要なものは書き直す。
- ホワイトボードの内容を更新する: 毎日少しずつ内容を変更したり、色を変えたりする。
- 情報の位置を変える: 同じ情報でも、場所を変えることで新鮮さを保つことができる。
例:毎週日曜日の夜に、来週の予定をホワイトボードに書き出す。この際、前の週とは異なる色のペンを使用したり、レイアウトを変えたりして、視覚的な新鮮さを保つ。
4. 五感を活用する
視覚だけでなく、他の感覚も活用することで、情報をより深く認識することができます。
具体的な方法:
- 指差し確認を行う: 重要な情報を読みながら、同時に指で指し示す。
- 声に出して確認する: メモの内容を声に出して読むことで、聴覚的な記憶も作る。
例:外出前の持ち物チェックでは「財布、スマホ、鍵」と声に出しながら、それぞれの物を手に取って確認する。これにより、視覚、聴覚、触覚を同時に使うことになり、忘れ物を防ぐ効果が高まる。
5. 情報を整理する
情報を整理することで、脳への負担を減らし、情報が処理されやすくなります。
具体的な方法:
- 情報をカテゴリー分けする: 例えば、仕事関連、家事関連、趣味関連など、カテゴリーごとに情報を分類する。
- リスト化する: やるべきことをリスト形式でまとめ、優先順位をつける。
- マインドマップなどで情報を視覚化する: 関連する情報をつなげて図式化することで、全体像を把握しやすくなる。
例:一週間の予定を管理する際、仕事、家事、趣味の3つのカテゴリーに分け、それぞれ色分けしたカレンダーに記入。これにより、一目で各カテゴリーの予定が把握でき、混乱を防ぐことができる。
6. デジタルツールを活用する
スマートフォンやパソコンのアプリを活用することで、効率的に情報を管理できます。
具体的な方法:
- タスク管理アプリを使用する: ToDoリストを作成し、期限や優先度を設定できるアプリを活用する。
- リマインダーアプリを活用する: 時間や場所に基づいてリマインドしてくれるアプリを使う。
- カレンダーアプリで予定を管理する: すべての予定をデジタルカレンダーに入れ、自動的にリマインドしてもらう。
例:「Todoist」のようなタスク管理アプリを使用し、仕事のタスク、家事、趣味の予定などをすべて入力。優先度や期限を設定し、完了したタスクにはチェックを入れていく。これにより、やるべきことを視覚的に管理でき、達成感も得られる。
7. 自分に合った方法を見つける
人によって効果的な対策は異なります。様々な方法を試してみて、自分に最適なものを見つけることが重要です。
具体的な方法:
- 異なる方法を組み合わせてみる: 例えば、デジタルツールと手書きメモの併用など。
- 定期的に効果を検証する: 月に一度、どの方法が効果的だったかを振り返る。
- 他の人の工夫を参考にする: ADHDの人のコミュニティやブログなどで、他の人の工夫を学ぶ。
例:一ヶ月間、手書きのToDoリスト、スマホのリマインダーアプリ、壁掛けカレンダーの3つの方法を試してみる。月末に、それぞれの方法での予定の達成率を比較し、自分に最も合った方法を見つける。
僕なりの解決法「手段はできるだけ統一化し、情報の新鮮さを保つ」
軽度のADHD傾向にある僕は、これまで以下の方法を試してきました。
- デスクの上に小さなホワイトボードを置き、ToDoリストを書く→すぐに背景化し、使わなくなる
- PCのディスプレイの周りにポストイットでToDoを書いておく→有効度は6割ほど、付箋だらけになるため断念
- 部屋にバカでかいホワイトボードを設置し、無理やり視界に入れる作戦→次第に使わなくなり、断念
- Windowsアプリの付箋(Sticky Note)を活用し、ディスプレイに常時タスク表示→景色化、断念
最終的に行き着いた解決方法は、以下の通りです。
- ToDoは正方形の小さな付箋に書いて手元──左手のすぐそば──に置いておく(あるいは、ずっと持っておく)。タスクは最大7つまで
- 期限が決まっているものは、自分宛てにメールを書いて未来の日時指定で送信(面倒だが、メールは確実に毎日チェックするので)
- Windowsアプリの付箋の位置は頻繁に移動させる(ずっと同じ場所だと背景化してしまうので、位置移動によって新鮮さを保つ)
コツとしては、以下の3つのポイントを意識することが重要です。
- 背景化への対処法はできるだけ統一し、自分なりのルールを決めておく(例「~になったら、~をする」というIf Thenルールなど)
- すでに習慣化されている行動と紐づけて情報を整理したり、新鮮さを保つ工夫を取り入れる
- 余計なタスクを抱えないことを意識する。基本的には即断即決を心がけ、先延ばしする場合はあえて「マジでヤバいタイミング」まで先延ばしする。
まとめ
ADHDにおける情報の背景化は、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。しかし、適切な対策を講じることで、この問題に効果的に対処することができます。
ここで紹介した7つの対策は、以下の通りです。
- 物理的に目立たせる
- 行動と結びつける
- 定期的に見直す
- 五感を活用する
- 情報を整理する
- デジタルツールを活用する
- 自分に合った方法を見つける
これらの対策を試してみて、自分に最適な方法を見つけてください。一つの方法だけでなく、複数の方法を組み合わせることで、より効果的に情報の背景化を防ぐことができるでしょう。
情報の背景化に悩んでいる方は、これらの対策を日常生活に取り入れることで、より効率的に情報を管理し、生活の質を向上させることができます。
ただし、すべての対策を一度に導入しようとすると、かえって混乱する可能性があります。まずは一つか二つの方法から始めて、徐々に自分に合ったシステムを構築していくことをお勧めします。
最後に、ADHDの症状は人によって異なり、その程度も様々です。
ここで紹介した方法が効果的でない場合や、日常生活に大きな支障がある場合は、専門医に相談することをお勧めします。適切な診断と治療により、よりよい生活を送ることができるでしょう。
注意: この記事は情報提供を目的としており、医学的なアドバイスではありません。具体的な症状や懸念がある場合は、必ず医療専門家にご相談ください。