瞑想の世界には、通常、避けるべきとされる「魔境」を意図的に目指す人々が存在するらしい──。
魔境とは、瞑想の過程で陥る危険な精神状態を指します。瞑想実践者はこの状態を避けることが一般的ですが、一部の人々はあえてこの状態を追求していると言うのです。
なぜ魔境を目指すのか?彼らの目的と心理に迫る
魔境を意図的に目指す人々の目的は様々ですが、主に以下のようなものが挙げられます。
- 超越的体験への渇望:通常の意識状態では得られない、強烈な精神的体験を求める。
- 自己の限界への挑戦:精神の限界を試し、自己を超越したいという欲求。
- 支配欲の満足:極端な自己中心性や他者支配の感覚を得たいという欲求。
- 現実逃避:日常生活の苦痛や不満から逃れたいという願望。
いずれも、強烈な欲求や願望が主目的になっていることがわかります。瞑想の最も基本的な目的は、心を静かにし、平穏な状態を保つこと。ここを履き違えてしまうと、瞑想を自己の欲求を満たすための道具としか考えられなくなってしまいます。
心理学的視点
心理学者のカール・グスタフ・ユング博士は、人間の無意識には「影」と呼ばれる暗い側面があると提唱しました。魔境を目指す行為は、この「影」の部分を意図的に引き出そうとする試みとも解釈できます。
しかし、この行為は極めて危険であり、精神的な均衡を大きく崩す可能性があります。
魔境に至るための具体的な方法「極端な瞑想・認知の操作・薬物」
魔境に至ろうとする人々が用いる方法は、通常の瞑想実践とは大きく異なります。以下に、いくつかの具体的な方法を紹介します。
注意:これらの方法は極めて危険であり、絶対に試みるべきではない。これは、フリではない。
1. 極端な瞑想実践
- 長時間(数日間)の断食を伴う瞑想(16時間断食──オートファジー程度であれば問題はないと思われる)
- 感覚遮断環境での長時間瞑想(アイソレーションタンクなど)
- 極端な呼吸法を用いた瞑想(過呼吸を再現するような危険なものを含む)
2. 認知の操作
- 自己を宇宙の中心と見なす瞑想
- 現実を幻想と捉える思考訓練
瞑想に限らず、このような自己暗示やマインドセットを持つことは危険です。
3. 薬物との併用:
- 幻覚剤やサイケデリック薬物と瞑想の組み合わせ(違法であり、健康上極めて危険)
4. 睡眠剥奪
- 長時間の断眠状態での瞑想
これらの方法は、脳の正常な機能を意図的に乱すことで、魔境的な状態を引き起こそうとするものです。
魔境に至るプロセス:4つの段階
魔境に至るプロセスは、一般的に以下の4つの段階を経ると考えられています。
1.自己認識の拡大
- 通常の自己意識の境界が曖昧になり始める
- 宇宙との一体感を感じ始める
2.感覚の変容:
- 現実感が薄れ、幻覚的な体験が増加
- 時間感覚が歪む
3.自己中心性の極端な強化:
- 自分が全てを支配しているような錯覚
- 他者への共感が著しく低下
4.現実との完全な乖離:
- 日常生活への適応が困難になる
- 極端な場合、精神病的症状が現れる
魔境に至るプロセスは、簡単に言うと、サイコパスやソシオパスのようになっていくようなもの。望んで行くような場所ではありません。
魔境の行き着く先は?精神崩壊、カルト──
魔境を意図的に追求することの危険性は計り知れません。その行き着く先には、以下のような深刻な結果が待っている可能性があります。
1.精神崩壊
- 現実との接点を完全に失い、日常生活が送れなくなる
- 極端な場合、精神病性障害の症状を呈する可能性がある
2.カルト的思考への陥落
- 自己を絶対視し、他者を支配しようとする
- 非倫理的な行動や判断を正当化してしまう
3.社会的孤立
- 家族や友人との関係が崩壊
- 職場や学校での適応が困難になる
4.身体的健康への悪影響
- 極端な瞑想実践や薬物使用による身体的ダメージ
- 睡眠障害や食欲不振などの症状
実際の事例として、1980年代末期から1990年代中期にかけて日本で起きたオウム真理教事件が挙げられます。この事件では、瞑想や宗教的実践の誤った解釈と極端な追求が、最終的に重大な犯罪行為につながりました。
警告:安易な追求は絶対に避けるべき
魔境の追求は、決して試みるべきではありません。以下の理由から、この行為は極めて危険であり、避けるべきです。
- 回復が困難:一度魔境に陥ると、そこから抜け出すのは非常に困難。専門家の助けを借りても、完全な回復には長い時間がかかる可能性がある。
- 法的リスク:特に薬物使用を伴う場合、法的な問題に直面する可能性がある。
- 周囲への影響:魔境に陥った個人の行動は、家族や友人、同僚にも深刻な影響を与える可能性がある。
- 人生の機会の喪失:魔境の追求に時間とエネルギーを費やすことで、教育や職業、人間関係など、人生の重要な機会を失う可能性がある。
瞑想誘発性精神病:専門家の見解と警告
デヴィッド・ルコフ博士の研究概要
アメリカの心理学者デヴィッド・ルコフ博士は、一部の人々が瞑想を通じて経験する「瞑想誘発性精神病」(Meditation-Induced Psychosis)に焦点を当て、瞑想実践に伴う潜在的リスクについての重要な研究を行っています。
瞑想誘発性精神病の定義と症状
瞑想誘発性精神病は、瞑想やその他の精神的実践が引き起こす可能性のある精神的不安定状態を指します。主な症状には以下が含まれます。
- 強い不安感
- 現実感の喪失(現実解離)
- パニック発作
- 幻覚体験
- 自我の崩壊や思考の混乱
- 妄想や誇大感
こうした症状は、精神病的エピソードと類似しており、特に瞑想の技法が深い意識変容を引き起こす場合に見られることがあります。
瞑想誘発性精神病の原因
ルコフ博士は、以下の要因が瞑想誘発性精神病のリスクを高める可能性があると指摘しています。
- 瞑想の過度な実践:長時間にわたる瞑想や、過度に集中した瞑想が、精神のバランスを崩す原因になることがある。
- 過去のトラウマや精神的脆弱性:トラウマを抱えている人や、既に精神的な問題を抱えている人は、瞑想によってそのトラウマが再浮上し、精神的危機に陥る可能性が高いとされている。
- 適切なガイダンスの欠如:瞑想は、熟練した指導者によるガイドの下で行われるべきですが、独学で深い瞑想状態に入り、適切なサポートがないまま精神的な危機を迎えることがある。
「スピリチュアル・エマージェンシー」アプローチ
ルコフ博士は、精神的危機を「スピリチュアル・エマージェンシー」として捉えるアプローチを提唱しています。これは、精神病的なエピソードを単なる「病気」として見るのではなく、スピリチュアルな成長や個人の変容のプロセスの一環として理解する方法です。
このアプローチでは、以下のような支援が重要とされています。
- 適切な精神的サポート:スピリチュアルな成長と精神的な危機を理解する専門家のサポート。
- 安定した環境:安定した、安心できる環境での回復が促進されること。
- 瞑想の一時的な中断:精神的なバランスを取り戻すために、瞑想の実践を一時的に止めることが推奨される場合がある。
魔境入りの実例:僕の場合
瞑想の落とし穴「魔境」とは?特徴・危険性・回避方法を解説でも書きましたが、過去の僕は歪んだ欲求、偏った願望から過度な瞑想訓練を行っていました。今にして思えば、僕の体験した数々の現象は「魔境」が原因だったのかもしれません。
実際、僕は精神科でPTSDと判断されたほど、幼児期から青年期にかけて大きなトラウマを抱えていました。これは、瞑想誘発性精神病の原因のひとつとしても挙げられている要因です。
それから数年かけてじっくりとトラウマと向き合い、認知処理療法による本格的な治療を続けた結果、PTSDの症状はほとんどなくなり、それからは問題なく瞑想の実践も続けることができています。
まとめ
魔境を意図的に目指すことは、極めて危険な行為です。瞑想本来の目的である精神的成長や内的平和とは正反対の結果をもたらす可能性が非常に高いと言わざるを得ません。もし瞑想に興味がある場合は、安全で適切な方法を──できれば信頼できる指導者のもとで学ぶことをお勧めします。
瞑想は、正しく行えば、ストレス軽減や精神的な成長につながる画期的で素晴らしい実践です。魔境の危険性を知り、安全で健全な瞑想実践を心がけることで、瞑想本来の恩恵を受けることができるはず。