人間と同等またはそれ以上の知的能力を持つ人工汎用知能(AGI)が、2027年までに実現するかもしれない──。
AGIが現実のものとなれば、間違いなく、僕らの生活に大きな影響を与える存在となるでしょう。
つまり、教育、労働、医療、エネルギー、交通、買い物、恋愛など、日常生活のあらゆる事柄が、AGIによって根本から変容する可能性が非常に高い。
今回は、AGIの登場で変化が予想される9つの主要な側面における「希望と絶望のシナリオ」について考えていきたいと思います。
1.教育
希望のシナリオ(楽観視)
- 個別に最適化された教育で学習効率が向上する
- テクノロジーと人間性を組み合わせた学習が促進される
- リモートでの教育と対面教育の組み合わせによって、全員が高品質な教育を受ける
絶望のシナリオ(悲観視)
- 教育格差が拡大し、機会の不平等が顕著に現れる
- 資源不足により、最新教育を受けられるのは一部のみとなる
- テクノロジーへの過度な依存によって、クリティカルシンキング(批判的な考え方や問題を深く考える力)が衰える
ひとこと
僕は日本の教育を語れるほど学のある人間ではありませんが、AGIの登場が「古い義務教育システム」を見直すきっかけになればいいなと思っています。
少なくとも、これまでの正解主義的な教育を根本的に変えない限りは、AGIによるアダプティブラーニング(個々の学生の学習進度や理解度に合わせて、教材や学習方法を調整する教育手法)が導入されたとしても、結局は「"社会全体にとって"最適化された教育」を加速させるだけ。きっと「個別に最適化された教育」ってそういうものじゃない。
しかし実際問題として、日本の基本的な教育システムは、AGIが登場しようが、アダプティブラーニングが導入されようが、そう簡単に変わるものではない気がしています。
そういった意味では、AGI導入後、より一層『学校って人間関係を学ぶ機会を提供する場所だよね』という見方が一般化し、学問を学ぶ場所としての価値は薄れていくのかもしれません。
2.労働
希望のシナリオ(楽観視)
- 生涯学習とキャリアの多様化が進む
- 柔軟性のある労働スタイルとワークライフバランスの改善が見込まれる
- 自動化によって単純労働が減少し、クリエイティブ(創造的)な仕事が増加する
絶望のシナリオ(悲観視)
- 大規模な失業と職種の消失
- 人間性を失った労働環境の悪化
- 経済格差の拡大と社会不安の増加
ひとこと
最近は「AIに奪われる雇用の割合、日本が14%でアジア最高」といったニュースが話題になっていました。
しかし、AGIが実現すれば、この比ではない規模感で失業と職種の消失が起きることになると僕は考えています。正しくはAIに奪われるというより、AIを活用する人間に奪われていくのですが。
仮にベーシックインカム(年齢や性別、所得などに関係なく、すべての国民に一定額を支給する社会保障制度)が導入されるにしても、この冬の時代は避けられないでしょう。
というより、ベーシックインカム導入後の社会のほうがディストピアに近い可能性さえあります。
労働からの解放は自由とイコールではないですし、そもそも、人間は退屈よりも事件を好む生き物です。BIが社会的問題を解決する魔法の解決策になるとは到底思えません。
どちらにせよ、AGIの実現によって雇用市場、労働環境、労働に対する価値観が根本から変わっていくことは間違いないように感じます。
3.医療
希望のシナリオ(楽観視)
- 医療コストの削減と効率性の向上
- 全体的な医療アクセスの改善と平等性の増加
- 個別化された医療(パーソナライズド・メディシン)で疾病の予防と治療が革新される
絶望のシナリオ(悲観視)
- 医療格差の拡大と質の低下
- プライバシー侵害とデータの不正使用
- 新技術への依存と伝統的医療知識の喪失
ひとこと
AGIの実現の進めば、自宅で「一人ひとりに最適化された医療」を受けられる未来が早まるかもしれません。
しかし、日本ではプライバシーの侵害やデータの不正利用に対する強い国民感情が障壁となり、この技術の一般への普及が遅れる恐れがあります。
AI関連技術が医療コストを削減し、アクセスを向上させることで、医療格差を縮小し、より多くの人が高品質な医療サービスを受けられるような未来に期待したいですね。
4.エネルギー
希望のシナリオ(楽観視)
- エネルギーコストの低減と経済発展の促進
- 環境問題への積極的な対応と持続可能性の実現
- 再生可能エネルギーの普及とエネルギー効率の向上
絶望のシナリオ(悲観視)
- 資源の枯渇とエネルギー危機の悪化
- エネルギー格差とアクセスの不平等
- 環境破壊の加速と気候変動問題の深刻化
ひとこと
AGIがエネルギー効率を高め、経済発展に貢献する未来は予想できるものの、経済的、社会的影響によって格差が生じる可能性があります。
資源管理や環境保護はもちろん、公平に分配する取り組みに関する課題も大きそう。
5.交通
希望のシナリオ(楽観視)
- 交通効率の改善と時間の節約
- 環境に優しい交通手段が普及する
- 自動運転技術の完全実現によって安全性が向上(事故発生率が現在の約1万分の1に)
絶望のシナリオ(悲観視)
- プライバシーの侵害と監視社会化
- 社会経済的な格差による交通アクセスの不平等
- 技術の不具合による交通事故の増加(悪意あるハッキング等?)
ひとこと
世界保健機関(WHO)によると、毎年約130万人が交通事故で亡くなっています。
20世紀から21世紀にかけての100年以上の期間で考えると、自動車事故による累計死者数は「第一次世界大戦と第二次世界大戦での総死者数」を超える可能性が高い。
AGIによる自動運転技術が完全交通が実現すれば、渋滞はもちろん、交通事故による死亡や重傷のリスクも大幅に減るでしょう。
6.買い物(ショッピング)
希望のシナリオ(楽観視)
- グローバルな市場アクセスと多様な商品の提供
- 環境に優しい消費とサステナブルな生産が実現する
- パーソナライズされたショッピング体験と効率の向上
絶望のシナリオ(悲観視)
- 経済格差による消費の不平等
- 過剰消費と資源の無駄遣いが加速する
- プライバシーの侵害と消費者の選択の制限が問題となる
ひとこと
世界中の様々な商品にアクセスしやすくなり、オンラインショッピングがより便利になることが予想されます。
しかし、パーソナライズの度合いはどプライバシー情報の依存するため、これからの時代はリテラシーの重要性がさらに増していくと思います。
AGIを活用した3Dプリンタ技術やドローン配送が「商品を手元に届けるプロセス」を革新することにも期待したいですね。
7.価値観
希望のシナリオ(楽観視)
- 個人の自由と創造性の尊重
- 人間中心の価値観の再確立と社会的連帯の強化
- 多様性と包摂性(誰もが居場所を持つこと)の促進
絶望のシナリオ(悲観視)
- 社会的分断と相互不信の増大
- 個人の自由とプライバシーの侵害
- 人間性の喪失と機械化された価値観の強制
ひとこと
AGIの実現は、間違いなく人々の価値観も大きな変化をもたらしますが、そうした変化が本当に自己の選択によるものなのか、外部の影響によるものかは分かりません。
ひとつ言えることは、AGIの出現によって、人は「哲学」をするようになっていくということです。
幸福とは何か、生きていくとは何か、知能とは何か、価値とは何か、人生に目的はあるのか、人間に自由意志はあるのか、機械に魂は宿るのか──。
価値観の再定義を余儀なくされるこれからの時代において、自らの価値観を自分で定義することは非常に重要な意味を持ちます。まさに、人間は考える葦である、ということですね。
8.人間関係
希望のシナリオ(楽観視)
- 文化的、世代間の障壁の克服
- コミュニケーション技術の発展で関係性が深まる
- 社会的なネットワークの強化と支援システムの充実
絶望のシナリオ(悲観視)
- オンライン上での偏見やハラスメントの増加
- デジタル世界における孤立と現実世界からの乖離
- 対人関係の希薄化とコミュニケーションスキルの低下
ひとこと
AGIの介入によって対人コミュニケーションにおける問題が改善し、よりスムーズな人間関係が築けるようになるのではないかなと思っています。
言葉や文化の壁はもちろん、言語能力の違いによる齟齬もなくなり、時と場合に応じた「最適化されたコミュニケーション」の実現に期待したいですね。
ただ、機械依存の人間関係が当たり前になるにつれて、純粋なコミュニケーションスキルは低下し、対人関係に対する価値観が変化──おそらく悪い方向に──していく可能性もあります。
9.恋愛
希望のシナリオ(楽観視)
- 個人の選択と自由の尊重
- 恋愛に対する理解と受容の増加
- テクノロジーを介した新しい出会いと関係性の形成
絶望のシナリオ(悲観視)
- プライバシーの侵害と過度な監視
- 恋愛感情の機械化や人間関係の商品化
- 恋愛における人間性の喪失と偽情報の拡散
ひとこと
まず考えられるのは、AGIによって最適化されたマッチングシステムですね。
価値観、趣味、収入、職業などの情報に基づいて、自分と最高に相性のよい人を見つけることができるようになっていくでしょう。当然、恋愛感情を利用した悪質な詐欺行為が増える危険性もありますが。
その一方で、AIと恋愛をする人間も増えていき、AGIの実現によって人々の恋愛観がこれまでにない形に発展していくことも十分に考えられます。AIと結婚する時代もそう遠くない、かも──。
実際は「希望と絶望が入り混じったカオス」になる
実際の未来は、「あるところはユートピア、あるところはディストピア」といったように、希望と絶望が複雑に入り混じったカオスになっていくでしょう。
僕はどちらかというと絶望寄り──ディストピアに近い形でAGIが社会に組み込まれていくと考えていますが、それはおそらく「気付いた人から不幸になっていく」ディストピアです。
ジョージ・オーウェルの『1984年』も、オルダス・ハクスリーの『すばらしい世界』も、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』も、主人公が世の中の不条理や矛盾に気付くことからストーリーが展開していきます。
意外にも、こうしたディストピア小説においては、大多数の人間は幸せであることが多い。大抵、不幸または大変な目に遭うのは、世界の矛盾に気付いてしまった主人公、あるいは主人公と近しい人物なのです。
さて、AGIによってもたらされるのは果たしてユートピアなのか、それともディストピアなのか。それを決めるのはあなただけ。