カーネギーメロン大学ヒューマンコンピュータインタラクション研究所の研究によると、一度途切れた集中力を再び取り戻すまで最大25分かかると言われています。
一方、時間管理術のひとつに「ポモドーロ・テクニック(1980年代、イタリア人のフランチェスコ・シリロによって考案された)」というものがあります。
このテクニックでは、タイマーを使用し、一般的に25分の作業と短い休息を繰り返す手法が取られています。
しかし本当に一度途切れた集中を再び取り戻すまでに25分かかるのであれば、
- ポモドーロ・テクニック1セット目、25分かけて集中状態に入る
- 短い休憩(集中状態がリセットされる)
- ポモドーロテクニック2セット目、再び集中状態に入るまで25分かかるため、集中状態に入ったと同時に2セット目が終了
- 集中状態に入れない状態がループする?
このように、集中したいのに集中できたと同時に集中状態を自ら放棄している、という本末転倒な事態が起きかねません。
今回はこの小さな矛盾について考察していきたいと思います。
集中には2つの形がある
脳は常に働いていて、身の回りからあらゆる情報を取り込んでいます。何に注意を払うのか、何をスルーするのかを選択し続けているんですね。
これは神経科学の分野で「選択的注意」と呼ばれていて、2つの形に分類することができます。
随意的集中(トップダウン)
トップダウンで集中するときは、何に集中するかという目的がはっきりしていて、過去の記憶や知識、体験から問題を解決しようと試みます。
勉強中や難しい問題を解決しようとしているときなどがこのパターンに当てはまります。
刺激駆動形集中(ボトムアップ)
アイデアがふと浮かんだり、インターホン、スマホの通知が鳴ったりすると、ボトムアップの集中力が発揮されます。
これは「どうしても目の前のことに集中せざるを得ない」という状態ですね。
突然大きな音が聞こえたり、道を歩いていて突然脇道から人が飛び出してきたり、といったシチュエーションです。
ポモドーロ・テクニックの問題点
「一度途切れた集中を再び取り戻すまで25分」という研究結果を前提とした場合、25分作業したのちに短い休憩を挟むポモドーロ・テクニックは本当に有効なのでしょうか?
問題となるのは、ポモドーロ・テクニックの「短い休憩」の部分ですね。
ここでの休憩の仕方によって「再集中までの時間が大幅に変わる」と考えられます。
一般的な休憩のイメージ
一般的な休憩というと、多くの人がスマホで調べ物をしていたり、SNSを眺めていたりをいった場面を想像するのではないでしょうか?
メールやLINEのチェックであったり、Twitterの通知であったり、新しいニュースであったり──。
しかしこれらは本当の意味での休憩ではありません。選択的集中のボトムアップに分類される「作業」です。
中にはトップダウン型のものもあるでしょうが、どちらにせよ刺激が大きく、脳を休めることはできていない──むしろ、さらに酷使してしまっている状況とも言えるでしょう。
こうなってしまうと、本来の作業に戻り、再び集中力を取り戻すまでに時間がかかってしまうのは当然です。
休憩にもトップダウン(随意的集中)を
「疲れる前に休む」は、脳の安定したパフォーマンスには必要不可欠ですが、正しい休み方を知らないと「休憩した気分にだけなって実際は休めていない」という残念な状態に陥ってしまいます。
気分転換という観点から言えば正しい休憩の仕方も人それぞれなのでしょうが、今回のポモドーロ・テクニックにおいては、休憩の概念をもう一度最初から考える必要がありそうです。
方法としてはシンプルに、休憩時間は脳と身体を休めることに全力を尽くす、です。
五感の知覚の割合
『産業教育機器システム便覧』によると、五感の知覚の割合は「味覚1.0%、触覚 1.5%、臭覚 3.5%、聴覚 11.0%、視覚 83.0%」と言われています。
注目すべきは「視覚83%」という部分ですね。つまり、人間が外界から得る情報の8割は目から入ってくる情報なのです。
本当に心身を休めるという意味で休憩するときは、少なくともスマホのような小さな画面に集中するのではなく、できる限り「視覚を休ませる」ことが重要になってくるでしょう。
聴覚11%というのも決して無視できない数字なので、イヤホンで心地よい音楽を流すか、静かな場所でゆったりするといいかもしれませんね。
マインドフルネス瞑想
もっともよい休憩の方法としては瞑想が挙げられるでしょう。
マインドフルネス瞑想によって、今の自分がしていること、考えていることにフォーカスし、それを観察することができれば、激しい感情やストレスを軽減する助けとなってくれそうです。
五感のひとつを選び、その感覚にだけ5分集中する、といった方法も有効なようです。心と体の動きを感じること、もしかしたらこれが正しい休憩と言えるのかもしれません。
ポモドーロ・テクニックは集中状態に入るまでのトレーニング
考えるに、ポモドーロ・テクニックというのは、集中状態に入るまでのトレーニングと言えそうです。
「疲れる前に休む」ということをタイマーを使うことで実現し、作業時間と休憩時間を明確に区切ることで「集中状態の質を上げる訓練」にもなっています。
ポモドーロ・テクニックを極めることができれば、集中状態に入るまでの時間が短くなり、さらに集中状態の深さもフロー状態と呼べるほどにまで精錬させることができるかもしれませんよ。
集中力については以下の書籍がわかりやすくまとめられています。DaiGoさんの著書の中でもっとも売れている一冊ですね。ただし、中にはすでに古い情報となっているものもあるので、その点には注意が必要です。