読解力の欠如、情報不足による自信過剰、SNSでの炎上……現代社会の課題とは

現代の日本では、識字率が"ほぼ100%"と高い一方で、文章──特に行間や文脈、比喩──を正確に読み解く力が不足していると指摘されています。つまり、「日本語は読めるが、理解できない」という人が増えているんですね。

後に紹介する、ホリエモンがSNSでの炎上や誤解に基づく批判に悩む現状や、進学校の高校生ですら文章読解問題で苦戦する実態がこれを裏付けていると言えるでしょう。しかし、この問題は単なる「読解力の低下」にとどまらず、心理的・哲学的な観点からも分析することができます。

今回は、読解力や情報リテラシー不足が引き起こす現代の社会問題を、心理学や哲学的視点を交えながら掘り下げていきたいと思います。

確証バイアスと読解力の欠如

まず、心理学的には、「確証バイアス」がこの問題に深く関与しています。確証バイアスとは、自分の既存の信念や価値観を支持する情報ばかりを重視し、それに反する情報を無視したり、軽視したりする傾向のこと。

これは、読解力が低い場合に特に顕著に現れます。読解力が欠如していると、文章の一部を表面的にしか理解せず、自分に都合の良い部分だけを取り上げて解釈しがち──。その結果、文章の全体像や著者の意図を正確に把握することができず、誤解や誤った結論に至ってしまうことが多いんです。

ホリエモンが指摘するSNSでの炎上は、まさにこの確証バイアスによるものが多いと言えます。投稿の一部を切り取って批判する人々は、全文や文脈を理解せず、自分の感情や信念に合った部分だけを拡大解釈してしまうんですね。このような偏った読み方は、社会的な対話や理解を妨げ、対立を深める要因となります。

以下、ホリエモンの発言の一部を引用します。

たとえば、私のSNS投稿に対してあまりにも的外れな批判が相次ぐのだ。なにもその投稿は小難しい理屈をこねているわけではない。いたってシンプルな記述だ。それなのに文意を完全に取り違えた批判が寄せられる。

批判自体はいくらでも大歓迎だ。思想と表現の自由である。でも明後日の方向にボールを返されても困る。反応のしようがない。

日本語は読める。でも理解はできない。そんな日本人が少なくないのだ。

「日本語は読めるけど理解できない人」はこんなに多い!情報弱者が大量生産される絶望的な事情|ダイヤモンド・オンライン

また、この記事では、「日本人の読解力レベルを検証*」した際に出題された文章問題の例が挙げられていました。

*国立情報学研究所・新井紀子教授が全国2万5000人を対象に行った基礎的な読解力の調査

次の文を読みなさい。

 Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

Alexandra の愛称は(  )である。

(1)Alex (2)Alexander (3)男性 (4)女性

※新井紀子『AIvs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)P200より

もちろん、答えは(1)Alexだ。引っかけ問題でもなんでもない。

しかし正解率はどうだったか。なんと高校生の3分の1が間違えたのである。しかもそれは進学校の生徒たちだ。日本人の日本語力は絶望的に低いのである。

進学校に通う高校生の3分の1が間違えた──? え?

そもそも、140字に満たない文章でさえ、正確に文意を読み取れず、誤解や誤った結論に至ってしまう人が多いのです。これはもはや、義務教育の敗北を認めざるを得ないでしょう。

ダニング=クルーガー効果と情報不足による自信過剰

次に、「ダニング=クルーガー効果」という心理学的現象から、情報不足と自信過剰の問題を見ていきます。この効果は、知識や能力が不足している人ほど、自分の判断や知識に対して過剰に自信を持つ傾向があるというもの。ジョンズ・ホプキンス大学の研究でも、一方の意見しか知らない人々が、自分の判断に自信を持ちすぎていることが明らかにされました。

これは、読解力の欠如と密接に関連しています。十分な情報を集めずに、表面的な理解で結論を出してしまうと、その結論に対して不適切に高い自信を持ってしまうんですね。そして、その自信が他者との議論や対話の場で頑なな態度を取らせ、対立や誤解をさらに深める結果を生む──。これはSNSや公共の場で見られる多くの対立に共通する要素です。

これを理解する上で、例えば、生成AI──特にイラスト生成AI──に関する議論が挙げられます。なぜ「AI学習の禁止を最大の争点にすること」が"筋が悪い"のか?でも詳しく考察していますが、生成AI関連の話題での"炎上"は、そのほとんどが「読解力の欠如」と「情報不足による自信過剰」によって引き起こされているものと言っても過言ではありません。

また、埼玉県川口市「中国籍の少年が起こした逆走事故」についても同様のことが言えます。正しく情報を──文章を読み取ることができず、本質的な問題とは異なる箇所に注目してしまい、結果的に誤解や誤った結論に至ってしまう──。この事故では、法律という技術的な要件を問題にすべきであるのに、メディアの策略にまんまとハマって人種間の問題に置き換えてしまう人が散見されました。

哲学的視点:プラトンの「洞窟の比喩」と現代の読解力

哲学的な観点からは、プラトンの「洞窟の比喩」がこの問題に関連してきます。この比喩では、人々が洞窟の中で縛られて外の世界を直接見ることができず、洞窟の壁に映し出される影を現実だと信じ込んでしまう状況が描かれています。これは、「人々が表面的な情報や偏った知識に依存し、真実を見ようとしない姿勢」を象徴していると言えるでしょう。

現代の読解力の問題も、この洞窟の比喩に似ています。文章の行間や文脈を深く考えず、目に見える情報や自分にとって都合の良い情報のみを「現実」として信じ込んでしまう──。その結果、本質的な真実や深い理解にたどり着くことができず、偏った見方が強固な信念となり、対話や協調が困難になってしまうんですね。このような状況を脱却するためには、洞窟から出て真実の光に目を向ける──すなわち表面的な理解を超え、深い洞察力を養うことが求められます。

しかし正直、どうすれば欠如した読解力を取り戻し、深い洞察力を養うことができるのかは分かりません。単にニュースや特定の話題に関する問題の本質を見極めるだけであれば、ChatGPTやGeminiにソースとしてURLや動画、テキストなどを提示し、「問題の本質はどこ?」と聞けば10秒とかからずに教えてくれます。

とはいえ、そのAIの回答さえ誤って読み違えてしまう可能性もある──ハルシネーションは抜きにしても──んですよね。仮に「小学生でも分かるように、問題の本質を説明して」とAIに指示をしたとしても、その回答の内容を正しく理解できない人がいるかもしれないことを踏まえると、一概にAIとの対話が解決策となるとは言えなさそうです。読解力の欠如は、思ったよりも深刻な問題。

まとめ

日本人が直面している「読解力の低下」や「情報不足による自信過剰」の問題は、心理学や哲学の視点から見ても深刻だと言わざるを得ません。確証バイアスやダニング=クルーガー効果、そしてプラトンの洞窟の比喩に代表されるように、現代社会では表面的な理解や偏った情報に依存する傾向が強まっているのです。

この状況を打開するためには、深い読解力を養い、情報を多角的に分析するリテラシーが必要──なのですが、解決策は正直に言って分かりません。あるとすれば、批判的思考と、他者の意見に耳を傾けること、偏見を持たずに多くの情報を収集する姿勢──でしょうか。

確証バイアスやダニング・クルーガー効果は心理的な作用なので仕方がない部分があることは確かですが、それでもやはり、SNSは規制が必要であると僕は考えます。SNSとかいう危険ドラッグが民主主義をぶっ壊す理由でも書いていますが、特に民主主義とSNSの組み合わせは、絶望的に悪い。塩素系漂白剤と酸性洗剤を混ぜるよりも危険。ガンジーだって全速力で逃げるレベルです。

また、現代の日本には、広がりすぎた経済格差、自責主義、正解主義、恥の文化、孤立感、テクノロジーによって齎された倫理的ジレンマなど、解決すべき問題が山のようにあります。詳しくは闇バイトはなぜ増えた?恥の文化と経済的貧困、行き過ぎた消費社会にて考察していますが、闇バイトへの参加──特に若年層を中心に増加している背景にも、資本主義社会における経済格差の拡大、SNSを通じた情報拡散の容易さなど、様々な要因が複合的に絡み合っていると考えられるのです。

課題は山積み。さすが問題解決先進国の日本といったところでしょうか。今後の動向に注視したい。