慈悲の瞑想(メッタ瞑想)とは?科学的根拠と実践法、その効果を深掘り

現代社会はストレスに満ち溢れています。仕事、人間関係、将来への不安──。心が休まる暇もないと感じる人も多いのではないでしょうか。

そんな現代人にこそおすすめしたいのが「慈悲の瞑想(メッタの瞑想)」です。『慈悲の瞑想? なにそれ宗教?』と思った方も安心してください。

慈悲の瞑想は、仏教の教えに基づいた瞑想法ですが、宗教とは関係なく、誰でも実践できるものです。そして実は、ストレス軽減や心の安定、人間関係の改善など、様々な効果が科学的に証明されているんですよね。

正直に言うと、僕も最初は『いやいや、宗教とかスピリチュアルとか、そういうのいいんで』というテンションだったんですが、試してみたらこれが意外と効き目があって。

この記事では、慈悲の瞑想の効果や実践方法について、最新の研究結果も交えながら詳しく解説していきます。具体的なステップや日常生活への取り入れ方も紹介するので、ぜひ最後まで読んで、興味があれば実際に体験してみてください。

慈悲の瞑想とは?

慈悲の瞑想とは、パーリ語の "mettā" ──慈しみ、友愛──という言葉に由来する瞑想法で、自分自身と他者に対して無条件の愛と思いやりの気持ちを育むことを目的としています。特に上座部仏教では重要な修行の一つとされていますが、宗教的な儀式や特定の信仰は必要ありません。

そもそも僕が「慈悲の瞑想」を知ったきっかけ

そもそも僕が慈悲の「瞑想の存在」を知ったのは、Netflixの『"こころ"をダイジェスト』という自然・科学ドキュメンタリー番組がきっかけです。その第4話『マインドフルネス』で"慈悲の瞑想"という言葉が出てきて、特に詳しい説明がないまま、以下の超ブッ飛んだ実験結果だけが記憶に残りました。

ミンギュル・リンポチェの瞑想実験

ネパールの僧、ミンギュル・リンポチェは、41歳の時に脳年齢が33歳と診断されたほど、瞑想によって脳の若さを保っていました。彼が"慈悲の瞑想"を行っている間、脳の共感回路の活動が驚異的な800%増加を示しました。

これについて研究者は「科学では説明できないレベル」「最も類似するのは"てんかん発作"」と述べ、強力な脳の意識的制御の結果であることが明らかにされました。Altered Traits, 2017

『慈悲の瞑想で、脳の共感回路の活動が800%アップ──? 最も類似するのは"てんかん発作"──? 何言ってんだこいつ』というのがファーストインプレッション。

そして、その後、ちょうど読んでいた『マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック』でも「慈悲の瞑想」という言葉が出てきて、詳しく調べてみようという気になったんですね。余談ですが、僕は運命論者ではないものの、こうしたシンクロニシティには素直に従うことにしています。

参考:偶然は必然? セレンディピティとシンクロニシティの違いとは

慈悲の瞑想で得られる5つの効果

慈悲の瞑想は、心身の健康に様々な効果をもたらすことが科学的研究によって示唆されています。以下に、主な5つの効果をまとめました。

1. ストレス軽減効果:心身をリラックスさせる

2014年の研究によると、9週間の慈悲培養トレーニング(CCT)プログラムを受けた参加者は、自己報告によるストレスレベルが有意に減少しました。また、マインドフルネスの増加と感情調整の改善も見られました。

これらの結果は、慈悲の瞑想が心身をリラックスさせ、ストレス反応を抑制する効果があることを示唆しています。

via: A randomized controlled trial of compassion cultivation training: Effects on mindfulness, affect, and emotion regulation

2. 感情調整能力の向上:ポジティブな感情を育む

2013年のfMRI研究では、8週間の認知的ベースの慈悲瞑想(CBCT)トレーニングを受けた参加者は、共感的精度タスク中の右側頭頭頂接合部の活動が増加しました。また、感情調整に関与する脳領域の活動も増加しました。

これらの結果から、慈悲の瞑想によって感情調整能力が向上し、ポジティブな感情を育みやすくなる可能性が示唆されています。

via: Compassion meditation enhances empathic accuracy and related neural activity

3. 人間関係の改善:共感力を高める

2011年の総説によると、慈悲瞑想は社会的つながりと共感性を増加させる可能性があることが示唆されています。複数の研究結果を総合的に分析した結果、慈悲瞑想が人間関係の質を向上させる可能性が指摘されています。

これらの知見は、慈悲の瞑想が他者への理解を深め、より良いコミュニケーションを促進する効果があることを示唆しています。

via: Loving-Kindness Meditation and Compassion Meditation: Potential for Psychological Interventions

4. 脳の構造変化:幸福感に関連する脳領域を活性化

2013年のfMRI研究では、2週間の慈悲瞑想トレーニングを受けた参加者は、苦しみを観察する際の下前頭回と前帯状皮質の活動が増加しました。これらの脳領域は、共感や感情調整に関連しています。

これらの結果は、慈悲の瞑想が脳の構造を変化させ、長期的な幸福感の向上に寄与する可能性を示唆しています。

via: Compassion training alters altruism and neural responses to suffering

5. 免疫力の強化:炎症を抑える

2013年の研究では、8週間のマインドフルネスベースのストレス軽減(MBSR)プログラムを受けた参加者は、ストレス誘発性の皮膚の炎症反応が減少しました。

この結果は、慈悲の瞑想を含むマインドフルネス実践が免疫系の機能を調整し、炎症反応を抑制する可能性があることを示唆しています。

via: A comparison of mindfulness-based stress reduction and an active control in modulation of neurogenic inflammation

注意事項:研究結果の解釈について

ただし、これらの研究結果を解釈する際には、以下の点に注意が必要です。

  1. サンプルサイズや研究期間が限られている場合があり、結果の一般化には慎重を要する。
  2. 一部の研究では、慈悲の瞑想と他の瞑想法や介入を明確に区別していない可能性がある。
  3. 多くの研究が自己報告に基づいており、客観的な測定が難しい面もある。
  4. 研究間で方法論や測定指標が異なる場合があり、直接的な比較が難しいことがある。
  5. これらの研究結果は興味深い可能性を示しているが、慈悲の瞑想の効果についてさらなる研究が必要。

より確実な結論を得るためには、大規模で長期的な研究や、異なる人口群での検証が今後の課題となります。個人の経験は様々であり、これらの効果がすべての人に同様に現れるとは限らないことにも留意してください。

とはいえ、近年の研究は慈悲の瞑想を含む瞑想実践の多くの利点を示唆しています。そして、慈悲の瞑想の魅力の一つは、その実践方法が比較的シンプルで誰でも始められることです。

慈悲の瞑想:誰でもできる実践方法

慈悲の瞑想は、特別な技術や道具を必要とせず、誰でも簡単に始めることができます。特別な場所や時間も必要なく、自宅でも職場でも、移動中でも、いつでもどこでも実践可能です。

ここでは、基本的な慈悲の瞑想の実践方法をステップごとに紹介していきます。時間は目安、各項目での文言はあくまでも例文です。

ステップ1:準備 (5分)

  • 静かで快適な場所を選ぶ。
  • 椅子に座るか、床にクッションを敷いて座る。背筋を伸ばし、リラックスした姿勢をとる。
  • 目を閉じるか、軽く閉じ、柔らかい視線で前方を見る。
  • 数回深呼吸をし、体全体をリラックスさせる。

ステップ2:自分自身への慈悲 (5分)

  • 心の中で、自分自身に次の言葉を繰り返す。以下、例文。
    • 「私が安全でありますように」
    • 「私が健康でありますように」
    • 「私が幸せでありますように」
    • 「私が平和でありますように」
  • これらの言葉を唱えながら、その意味を深く感じ取る。
  • 自己批判的な思考が浮かんでも、それらに優しく気づき、慈悲の言葉に戻る。

ステップ3:愛する人への慈悲 (5分)

  • 愛する人(家族や親友など)を心に思い浮かべる。
  • その人に対して、ステップ2で用いたのと同じ慈悲の言葉を繰り返す。
  • その人の幸せや健康を心から願う気持ちを育てる。

ステップ4:中立的な人への慈悲 (5分)

  • あまり深い感情を持たない人(例:近所の人や通りすがりの人)を思い浮かべる。
  • その人に対しても同じ慈悲の言葉を繰り返す。
  • すべての人が幸せになる価値があるという認識を深める。

ステップ5:困難な関係にある人への慈悲 (5分)

  • 関係が難しい人や苦手な人を思い浮かべる。
  • その人に対しても慈悲の言葉を繰り返す。
  • 困難さを感じても、根気強く慈悲の気持ちを送り続ける。

ステップ6:すべての生き物への慈悲 (5分)

  • 最後に、すべての生き物に対して慈悲の気持ちを広げる。
  • 「すべての生き物が安全でありますように、健康でありますように、幸せでありますように、平和でありますように」と唱える。
  • 世界中のすべての存在が幸せになることを願う。

ステップ7:終了 (2分)

  • ゆっくりと意識を周囲に戻す。
  • 体を少し動かし、目を開ける。
  • 瞑想中に感じた感覚や気づきを、しばらく静かに振り返る。

僕の実践例「正直、慈悲の瞑想めちゃくちゃ難しい」

僕も普段から慈悲の瞑想は取り入れるようにしているものの、ステップ3あたりから抵抗を感じてしまい、ステップ4以降はほとんどできていません。どこかスピリチュアルっぽさを感じて無意識に避けてしまうのか、あるいは単に慈悲という感情に恥ずかしさを感じてしまうのか──。

ただ、上手くできないからといって自分を責めたり、不安になったりする必要はないとのことなので、地道に続けていこうと思っています。僕の場合、他者はもちろん、自分に対して慈悲を向けるのも難しかったりするので、まずはうちで飼っているペット──ぬこ様──に対して慈悲を向けることを心がけています。

慈悲の瞑想についての考え方や実践法は『マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック』でも詳細に解説されているので、より深く知りたい方はぜひこちらを読んでみてください。特に「自分に自信が持てない」とか「自分のことが嫌い」といった感情を持っている人ほどおすすめ。

慈悲の瞑想を日常生活に取り入れる方法

慈悲の瞑想は、日常生活の中でも簡単に実践できます。以下に、具体的な方法をいくつかご紹介します。

  • 朝の5分間瞑想:起床後、ベッドで座ったまま5分間の短い慈悲の瞑想を行う。
  • 通勤中のマインドフルネス:電車やバスの中で、周りの人々に心の中で慈悲の言葉を送ってみる。
  • 食事の前の感謝:食事の前に、食べ物を作ってくれた人々に対して感謝と慈悲の気持ちを向ける。
  • 就寝前の振り返り:寝る前に、その日出会った人々に対して慈悲の気持ちを送ってみる。
  • ストレス対処法:ストレスを感じたとき、自分自身に対して慈悲の言葉を唱える。

慈悲の瞑想の効果を高めるためのヒント

  • 毎日続けること: 慈悲の瞑想の効果を高めるためには、毎日続けることが大切。最初は1日5分程度から始め、慣れてきたら徐々に時間を延ばしていく。
  • 無理のない範囲で: 瞑想中に雑念が浮かんでも、気にせず、優しく呼吸に意識を戻す
  • 自分に合った方法を見つける: 上記の方法以外にも、様々な慈悲の瞑想の実践方法がある。自分に合った方法を見つけて、継続することが大切

まとめ

慈悲の瞑想は、ストレスの多い現代社会において、心の平穏と幸福を得るための有効な手段と言えるでしょう。宗教やスピリチュアルな考え方に関係なく、誰でも実践できる心のトレーニングです。ぜひ今日から慈悲の瞑想を始めて、心穏やかで幸せな日々を送ってみてください。

とは言ったものの、実際にやってみると、おそらく多くの人が心の抵抗を感じるはずです。コツとしては、あまり気負わず、真面目に考えず、きちんと完璧にやろうとせず、肩の力を抜いて"とりあえずやってみる"ことが重要です。

今回の記事を書いてきてなんですが、瞑想なんてたくさん種類あるので、慈悲の瞑想が合わなかったら別の方法に切り替えても全然いいんです。他の方法と組み合わせてもいい。焦らずじっくり、自分に合った方法を見つけていけば、それでいいのです。というわけで、関連記事、置いておきます。