孫正義「ChatGPTを使っていない人は人生を悔い改めたほうがいい」

2023年10月に行われた「Softbank World」での孫正義の発言が、一時期ネット上で話題となりました。

──ChatGPTを使ってない人は、『人生を悔い改めたほうがいい』

スピーチを聴けば分かる通り、孫正義は、はっきりと、完全に断言しています。ただ、この発言だけが切り取られ、本質が歪んで伝わってしまっているようにも感じます。

今回は、この1時間ほどのスピーチの内容を簡単にさらっていきながら、それぞれの言葉を僕なりに解釈し、発言の意図を考察していきたいと思います。

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AI・AGI・ASIの違い

スピーチ内では、AI、AGI、ASIといった何やら難解そうな単語が登場してきます。

それぞれの略語の概念が曖昧だと話全体が曖昧になってしまうため、最初に各言葉の定義を記しておきます。

  • AI(Artificial Intelligence):アーティフィシャル(人工)インテリジェンス(知能)
  • AGI(Artificial General Intelligence):アーティフィシャル(人工)ジェネラル(汎用)インテリジェンス(知能)
  • ASI(Artificial Super Intelligence):アーティフィシャル(人工)スーパー(超)インテリジェンス(知能)

GはジェネラルSはスーパーなので、理解するとそう難しいものでないことが分かるでしょう。

ただ、これらの境界線、つまり、「どこからがAGIなのか?」という共通の定義はまだ曖昧であるのが実情です。

サム・アルトマンなど世界のテックプロは、AGIを「中央値の人間(medium human)」──同僚として受け入れられるAIであるか──と定義していることが多いですね。

【AIと電力不足】2027年までに汎用人工知能「AGI」が登場する可能性でも書きましたが、AIとAGIは、基本的に「タスクの多様性と学習能力の広がりを持つかどうか」で区別されます。

孫正義の言うAGIは、世界の専門家の言うASI

一方、孫正義は、AGIを「人類の叡智の総和の10倍」と定義しています。これは、世界のテクノロジー専門家の言う「ASI(超知能)」に匹敵するものだと考えるのが妥当でしょう。

  • テック専門家:AGIの定義「中央値の人間
  • 孫正義:AGIの定義「人類の叡智の総和の10倍

ただ、僕は、テックプロの言う「AGI≒中央値の人間」という定義は、人間の感情面の問題を鑑みた結果の「優しい"過小"評価」なのではないかと思っています。

日本はもちろん、海外でもまだまだAIに対しての警戒心は強いと言わざるを得ませんし、歴史を振り返ってみても、"人類の未知に対する恐怖"はあまりに大きい。

ただでさえ、AIに対して警戒する人間相手に、いきなり「あ、もうAIは人類の知能を超えてます。もはやAGIです」と言った日には、もはやどんな影響が出てくるか分かりません。

あくまで、控えめに「AGI≒中央値の人間」とすることで人類の理解スピードに合わせた表現をしている、と考えたほうが合点がいきます。

そういった意味では、孫正義の言う「AGI=人類の叡智の総和の10倍」のほうが、現在におけるAIの加速度的成長を正確に捉えているのではないかと感じます。

ChatGPTを使っていない人は「人生を悔い改めたほうがいい」

さて、AGIの話題はひとまず横に置いておき、問題の発言がどういった文脈でなされたのかを見てみます。

孫正義は、会場にいる人々に対し、『この中で、ほぼ毎日、自分自身のため、あるいは仕事に関係あるところでChatGPTを使っている人はいるか』と問いました。

会場には少なくとも百数人以上いたと思うのですが、その中で手を挙げたのは、全体の1割にも満たなかったんですね。

ここで例の『手を挙げなかった人は人生を悔い改めたほうがいい』という発言が飛び出たわけです。動画だと、11:08あたり。

つまり、「(ChatGPTの技術を指して)手に入るのに、手に入れていない。使えるのに、使っていない。そんな人生観でよいのか」ということを言っているわけです。

ChatGPTは危険?

また、孫正義はハルシネーション──AIが事実に基づかない情報を生成する現象──の問題に対し、「それは一時的な問題である」としています。

電気だって時々爆発するし、自動車だって時々事故を起こすだろう、と。ハルシネーションを引き合いに出してAIを使わないことは電気や自動車を使わないと言っているのと一緒だ、と。

『好む好まずに関わらず、AI革命はやってくるのだ──』

AIは見方によって核爆弾よりも大きな力を持つことになるので規制すべき、という立場を取っているものの、それがChatGPTを使わなくていい理由にはならない、ということですね。

ChatGPTはすでに複数の領域において人類を凌駕している

実際、ChatGPT-4の能力は、すでに人間のハイクラスな知識を複数の分野で獲得しています。

100ヶ国以上の言語を理解し、司法試験は裁判官相当、医師免許にも合格レベル──。

周りにそんな人います? まず、いないですよね。GPT-4はすでにその領域に達しているのです。

そういったハイクラスな存在から、月たった3,000円ぐらいであらゆる分野のことを教えてもらえるんです。それだけでなく、画像出力、プログラミング、文章執筆、データ分析などもできてしまう。

正直、僕はGPT-4を触った瞬間に「うわ、やば」と思い、当時受けていたオンライン授業を即刻解約したし、メールの内容も、作業のオートメーションに必要なコードも、記事執筆も、データ分析も、大抵のことはGPT任せになってしまいました。

孫正義のChatGPTの使い方

また、孫正義は「ChatGPTを"Google検索"のように使っている人は間違い」と言っており、有効な使い方として「ディベート(議論)」を推奨しています。

つまり、特定の論題に関して、ChatGPTと議論をするということ。これは僕も常々思っていることだったので、とても共感できる部分でありました。

僕自身、GPT-4がリリースされた初期からずっとChatGPTにお世話になっていますが、そのうち8割はディベート的な使い方です。

また、彼は「最近は、GPT同士でディベートさせて、自分はそれを眺め、たまに茶々を入れるという使い方をしている」とも言っていましたね。

ビジネスでのChatGPT利用率は日本7%、米国51%

孫正義は、出川が如く、スピーチ内で何度も『やばい!』という言葉を使っています。日本、やばい! ChatGPT使ってない人、やばい!

特に印象的だったのは、ビジネスにおけるChatGPT利用率を日本と米国で比較したシーン。

スライド内のデータ(2023年6月時点)によると、ChatGPTを使っている日本企業は7%。それに対し、米国は51%と、44ポイントの差があります。

https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=580(実際のスライドとは異なる画像)

さらに、「日本企業のおよそ72%がChatGPTを禁止している、あるいは禁止を検討している」ことについても、かなり危機感を持っているようでした。

個人利用シェアでは日本は世界第3位

スピーチ内では触れていなかったものの、個人利用で見ると、日本は米国、インドに続き、世界第3位のトラフィックシェアを獲得1しています。

Openai.comの国別アクセスシェアTOP5(2022年11月~2023年5月)

順位シェア (%)
1米国10.2
2インド8.7
3日本7.0
4インドネシア3.9
5カナダ3.0
similarweb

AGIは10年以内に実現する

孫正義は、「AGIは10年以内に実現するだろう」としています。彼の定義によると、AGIは「人類の叡智の総和の10倍」でしたね。

何を聞いても人類よりも優れた答えを出す。議論の余地のないレベルで優れた答えを出すようになる。AGIが実現したら、世界は根底から変わる──と、そう言っているのです。

AGIが実現したら世界はどう変わるか

『AGIが実現すれば、世界は根底から、画期的に変わる。教育、社会のあり方、価値観、人間関係──ありとあらゆるものが、変わる』

「AGIによって変わる未来」の例としては、以下のようなものが挙げられていました。

  • 自動運転技術:自動車事故はほとんど起きなくなる(1万分の1ほど)
  • 全産業の改革:ありとあらゆる産業に改革が起きる
  • 需要と供給の完全なマッチング:あらゆる場面において"ロス"がなくなる
  • より"人間らしい"カスタマーサービスが AGIによって 実現される
  • 投資運用:「これが最もキラーアプリになるだろう」
  • 遺伝子解析:人それぞれに合った最適な医療

AGIから見た人間は「猿」レベル

孫正義は、AGIと人類とを比べた上で、「AGI 対 人類は、例えるなら、人類 対 猿」と言っています。

猿の脳細胞(ニューロン)の数は、人間のおよそ10分の1だそう。つまり、"人類の叡智の総和の10倍"賢いAGIから見れば、人間は「人間から見た猿レベル」ということですね。

この表現は大げさでもなんでもなく、本当にその通りだと思います。

ASIから見た人間は「金魚」レベル

さて、続いて、AGIのさらなる進化版「ASI」の話題ですが、孫正義は『ASIは20年以内に実現するだろう』と言っています。

ASIは、アーティフィシャル(人工)スーパー(超)インテリジェンス(知能)の略でしたね。

彼は、ASIの定義を「人類の叡智の総和の10000倍」としました。これは、金魚のニューロンの数≒人間の1万分の1だからだそうです。

ASI 対 人類は、例えるなら、人類 対 金魚

金魚ですよ、金魚。つまり、ASIが実現すれば、もはや人類はASIの考えを完全に理解することはできなくなるのです。

人間が金魚に「abc」というアルファベットを教えたところで、それを理解できる金魚はまずいないと考えていいでしょう。

そういったことが今後20年以内に起きるだろう、と彼はそう言っているわけですね。やばい。

『ニッポンよ、目覚めよ』

孫正義は、最後に、今後の人類の進化における「願望」の重要性を指摘しています。

AIが加速度的に成長する時代において取り残されないためには、強い願望を持って、行動していくことが重要である──。

おそらく、そういったことが言いたかったのではないかなと思います。

遅かれ早かれ、AGI、ASIはまず間違いなく実現するでしょう。そうなったとき、あるいは、そうなるまで、人間はどう生きたらよいのかを考えることは、非常に重要な問いであると僕は考えます。

かなり面白いスピーチなので、時間のある方は前半部分だけでも観てみてください。後半は自慢話っぽい話が続くだけなので、前半の20分と最後の5分を観るだけでも勉強になります。

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