人生の意味や目的を見出せず、虚しさを感じたことはありませんか? 今、多くの人が「どう生きるか」という問いに悩み、答えを探し求めています。
この記事では、アルベール・カミュやフリードリヒ・ニーチェの思想を手がかりに、「生きている」ことの重要性を再発見し、現代を生きる私たちへのメッセージを探っていきます。
「生きる意味」や「生き方」に悩むあなたの心に、少しでも響くものがあれば嬉しいです。
「どう生きるか」という問いへの違和感
人生の意味や目的、理想の生き方──。これらは、私たち人間にとって、永遠のテーマと言えるかもしれません。
多くの人が、「自分は何のために生きているのか」「どうすれば幸せに生きられるのか」という問いの答えを、探し求めています。
しかし、果たして「どう生きるか」という問いに、絶対的な答えは存在するのでしょうか?
「生きる意味」を探す旅の落とし穴
「どう生きるか」の答えを探す旅は、時に私たちを苦しめます。「こうあるべき」という理想像と現実の自分とのギャップに悩み、自己嫌悪に陥ったり、他人と比べて劣等感を抱いたりすることもあるでしょう。
また、「生きる意味」を外部に求め、権威や流行に流されてしまう危険性もあります。結果、人生に失望や虚無感を抱いてしまうことも少なくありません。
実存主義が照らす「生きている」という事実
「どう生きるか」という問いに囚われ、苦しんでいる私たちに、新たな視点を与えてくれるのが実存主義(人間の実存を哲学の中心とする思想)です。
特に、アルベール・カミュの思想は、「生きている」という事実そのものに価値を見出すための、大きなヒントを与えてくれます。
カミュが見た人間の「不条理」な運命
カミュは、人間の生は本質的に「不条理」であると考えました。
「不条理」とは、筋道が立たないこと、つまり、この世界には、人間の理解を超えた、理不尽な出来事や不条理な状況が存在するということです。
たとえば、どんなに努力しても報われないこと、愛する人が突然いなくなってしまうこと、これらはすべて「不条理」な出来事です。
カミュは、「シーシュポスの神話」で、ギリシャ神話に登場するシーシュポス王の物語を通して、人間の不条理な運命を描いています。
シーシュポスは、神々から、頂上に押し上げてもすぐに転がり落ちてしまう岩を、永遠に運び上げ続けるという罰を与えられます。これは、まさに人間の不条理な運命を象徴しています。
しかし、カミュは、シジフォスは絶望的な状況にありながらも、岩を運び続けること、すなわち「生きること」そのものに意味を見出したと説きます。
不条理を受け入れ、「今この瞬間」を生きる
カミュは、不条理な運命に直面した時、絶望したり、自殺したりするのではなく、その不条理を受け入れ、「今この瞬間」を懸命に生きることに価値を見出しました。
たとえ人生に明確な意味や目的がなくても、「今この瞬間」を生きているという実感は、かけがえのないものだからです。
「どう生きるか」に囚われるのではなく、「今を生きる」ことに意識を向ける──。これこそが、カミュが私たちに示した、不条理な世界を生き抜くための指針なのです。
ニーチェが説く「価値を見出す力」
カミュの思想をさらに深めるために、ここで、フリードリヒ・ニーチェの考え方を見てみましょう。竹田青嗣(日本の哲学者)は、著書『ニーチェ入門』で、カントとニーチェの思想を比較しています。
「意味づけ」が世界に意味を与える
カントは、人間は理性(物事を論理的に考える能力)によって、客観的(誰が見ても同じ)で普遍的(いつでもどこでも変わらない)な真理を認識できると考えました。
つまり、世界には、あらかじめ「正しい生き方」や「善悪の基準」が存在し、人間は理性によってそれを理解できる、ということです。しかし、ニーチェは、そのような客観的な認識は不可能であると考えました。
ニーチェによれば、世界そのものには、何の秩序も意味もありません。
そこに意味を与えるのは、他ならぬ人間です。人間は、「欲望=身体」を持つ生命体として、自らの「価値判断」によって、世界を解釈し、意味づけています。
たとえば、「リンゴ」は単なる果物ではなく、「美味しい」「栄養がある」といった価値を与えられて初めて、私たちにとって意味のある存在になります。
「生きている」からこそ生まれる「価値」
ニーチェは、私たちが「何に価値を感じるか」は、一人ひとりの「生きたい」という欲望に基づいていると考えました。たとえば、美味しいものを食べたいという欲望は、食べ物に「美味しい」という価値を与えます。
つまり、「生きている」こと自体が、あらゆる価値の源なのです。言い換えれば、「生きている」という事実がなければ、そもそも「どう生きるか」という問いすら生まれないのです。
「生きていることが重要」というメッセージの真意
カミュとニーチェの思想を踏まえると、「どう生きるかが重要なのではなく、生きていることが重要」という言葉は、以下のようなメッセージを、私たちに投げかけていることがわかります。
- 「どう生きるか」という問いへの過剰な執着から、自分を解放しましょう。: 人生の意味や目的は、外部から与えられるものではありません。それに囚われすぎず、まず「生きている」という事実を大切にしましょう。
- 「今この瞬間」を精一杯生きましょう。: 過去や未来に囚われず、「今この瞬間」を精一杯生きることに集中しましょう。たとえそれが些細なことであっても、そこには必ず喜びや発見があるはずです。
- 不条理を受け入れ、その中で自分なりの生き方を見つけましょう。: 人生には、理不尽な出来事がつきものです。それを嘆くのではなく、運命として受け入れ、その中で自分なりの生き方、喜び、価値を見つけていきましょう。
- 「あなた」が価値を見出す主体であることを自覚しましょう。: あなたは、単に世界を受動的に認識する存在ではなく、自らの「欲望=身体」に基づいて世界に「価値を見出し」、意味づけている主体です。この自覚は、自分の人生を主体的に生きるための第一歩となります。
- 「生きている」という奇跡に感謝しましょう。: 私たちが今ここに存在していることは、決して当たり前のことではありません。それは、無数の偶然と奇跡が重なった結果です。その奇跡に感謝し、生きていることそのものを喜びましょう。
「生きていることが重要」という視点から生まれる新たな地平
「どう生きるか」ではなく「生きていることが重要」という視点に立つことは、私たちにどのような新たな地平を開いてくれるのでしょうか。
主体的な人生を創造する
「どう生きるか」の絶対的な答えがないということは、自分の人生に対する責任がより大きくなることを意味します。私たちは、自らの「価値判断」に基づいて、自らの人生を切り開いていかなければなりません。
しかし、それは同時に、自分の人生を自由に創造できるということです。世界を自らの「価値判断」に基づいて解釈し、意味づけることは、創造的な行為です。
私たちは、自分なりの世界観を構築し、自分なりの生き方を創造していくことができるのです。
「生」そのものを肯定する力
「生きている」という事実そのものが、あらゆる意味や価値を生み出す出発点であると認識することは、「生」そのものへの深い肯定に繋がります。
たとえ苦しみや困難に直面しても、その中で「価値を見出し」、「生きる」ことを選択し続けることができるのです。
実践: 「生きている」を実感するためのヒント
では、具体的にどうすれば「生きている」ことを実感し、その価値を味わうことができるのでしょうか?
五感を通して「今」を感じる
まずは、五感を通して「今この瞬間」を、丁寧に感じてみましょう。
美味しいものを味わう、美しい景色を眺める、心地よい音楽を聴く、好きな香りを嗅ぐ、大切な人に触れる──。そういったシンプルな行為が、「生きている」という実感を高めてくれます。
たとえば、朝起きたら、カーテンを開けて太陽の光を浴びてみましょう。そして、深呼吸を3回してみてください。新鮮な空気を体内に取り込むことで、「生きている」ことを実感できるはずです。
自分なりの「価値観」を意識する
自分が何に喜びを感じ、何に価値を見出すのかを、意識してみましょう。他人と比べる必要はありません。自分にとっての「好き」「楽しい」「心地よい」といった感覚を大切にすることで、自分なりの「価値観」が見えてきます。
たとえば、僕は、読書、執筆、自然の中で過ごす時間に、特に喜びを感じます。これらの体験は、僕に「生きている」という実感を強く与えてくれます。
あなたにとっての「価値ある時間」は何でしょうか?
今日一日、自分が何に喜びを感じたか、3つ書き出してみましょう。どんな些細なことでも構いません。続けることで、自分が大切にしたい価値観が見えてきます。
小さな「選択」を積み重ねる
日々の生活の中で、小さな「選択」を積み重ねていくことも大切です。朝食に何を食べるか、休日に何をするか、どんな本を読むか。一つひとつの「選択」が、あなたの「価値観」を反映し、あなたの人生を形作っていきます。
結論
「どう生きるかが重要なのではなく、生きていることが重要」という言葉は、人生に悩んだ時、虚無感に襲われた時、私たちに「生きること」そのものの価値を思い出させてくれる、力強いメッセージです。
カミュが言うように、人生は「不条理」かもしれません。ニーチェが言うように、「どう生きるか」に絶対的な答えはないのかもしれません。
しかし、だからこそ、私たちは、「今この瞬間」を精一杯生き、自分なりの「価値観」に基づいて、自分だけの人生を創造していくことができるのです。
「生きている」という奇跡に感謝し、「今この瞬間」を大切に生きる。そして、自分なりの「価値観」に基づいて、自分だけの人生を創造していく。
このメッセージが、あなたの人生をより豊かに生きるための一助となることを、心から願っています。そして、あなた自身の「価値観」に基づいて、今日という一日を、大切に過ごしてみてください。何か新しい発見や喜びが、きっとあなたを待っているはずです。
そして、もしあなたが今、人生に迷いや不安を感じているなら、ぜひカミュやニーチェの本を手に取ってみてください。彼らの言葉は、あなたの「生きる」を、きっと力強く支えてくれるでしょう。