「AI」よりも柔軟性や適応性に優れた「AGI」は、果たして"いつ"登場するのか──。
今回は、AI開発の次なる大きな壁である電力不足の方面から、AGIの登場時期について探っていきます。
※個人的な見解や推測が含まれているため、正確さを求める場合には必要に応じて各情報源のチェックをおすすめします。
AIとAGIの違い
AI(人工知能)とAGI(人工汎用知能)の違いは、主にその適用範囲と柔軟性にあります。
- AI:特定のタスクや問題を解決するために設計されたシステムやアルゴリズム。例:チェスをするAI、画像を認識するAIなど
- AGI:人間と同様に幅広いタスクや問題を学習し、理解し、解決する能力を持つシステム。柔軟で適応性があり、学んだことを新しい状況に応用する能力を持つ。
例えるならば、AIが「専門家」で、AGIは「万能スキルを持つ学習者」といったところでしょうか。
AGIは、幅広い能力──タスクの多様性と学習能力の広がり──を持つことでAIと区別されます。
OpenAIには「2027年までに『AGI』を開発する計画」があった?
2024年3月、X(旧Twitter)にて公開された「2027年までに汎用人工知能『AGI』を開発する」というOpenAIの計画についての文書が話題になりました。
OpenAI’s delayed plans to build AGI by 2027 (Q*) https://t.co/idPy12CluW
— Jackson (@vancouver1717) March 3, 2024
以下、54ページのPDF形式で公開された文書の要約です。
- OpenAIは、2022年8月に125兆パラメータのマルチモーダルモデルのトレーニングを開始した。
- このモデルは、Arrakis、またはQと呼ばれる。 2023年12月にトレーニングを終えたが、実行コストの高さからローンチはキャンセルされた。
- これが、2025年にリリース予定であったオリジナルのGPT-5である。
- Gobi(GPT-4.5)は、オリジナルのGPT-5がキャンセルされたために「GPT-5」に改名となった。
- 次のステージであるQは、もともとGPT-6と呼ばれていたが、イーロン・マスク(*)の訴訟によって保留となり、GPT-7(もともとは2026年にリリース予定)と改名された。
- Q 2025(GPT-8)は、完全なAGIを実現するために2027年にリリースされる予定だった。
要約ここまで。
*イーロン・マスク
スペースX、テスラ、OpenAIなどの共同設立に携わり、現在は、スペースX、テスラのCEO、X(旧Twitter)の執行会長兼CTOを務める。
米誌フォーブスが毎年発表している恒例の「世界長者番付(WORLD'S BILLIONAIRES LIST)」で2位。(次の発表は2024年4月)
さて、この文書で特に重要なのは「2027年に完全なAGIを実現するためのモデルをリリース予定であった」そして「2026年リリース予定だったQ(改名後のGPT-7)がイーロン・マスクの訴訟によって延期となった」という点です。
OpenAIとサム・アルトマンを提訴する訴状1は、2024年2月29日(米国時間)の深夜に提出されました。
イーロン・マスクは過去に「AIの急速な発展は人類が危機的状況に陥る可能性がある」と警告しており、さらに「もしそれが可能であるなら、自分がその進歩を止めるのも厭わない」と発言しています。
この状況は「OpenAIはすでにAGIの公開準備はできているが、イーロン・マスクの訴訟によって遅れが生じている」とも読み取ることができます。
もしかすると、イーロン・マスクは「AGIは"まだ"人類に早すぎる」と考えているのかもしれません。
PDF文書は、正直に言って「信憑性に欠ける内容である」と言わざるを得ないものの、もし内部関係者が"あえて"この方法を用いてリークを試みているのだとしたら──。そう考えると非常にロマンがあります。
AGIの定義を「IQの中央値を持つ一般的な人間が行うことができる種々のタスクを理解し、実行する能力を代替するシステム」とし、すでにそのレベルのモデルのトレーニングが終了していると仮定すると、AGIの登場はそう遠くない未来にやってくると見てよさそうです。
2026年までにAIの成長が鈍化する2つの可能性
続いて、AIの成長が鈍化する2つの可能性──「2026年問題」と「電力不足問題」についても考えていきます。
2026年問題
「2026年問題」は、大規模言語モデル(LLM)の学習に必要なデータが使いつくされ、2026年までに良質なデータが枯渇してしまうという問題です。
AI研究の第一人者、カリフォルニア大学のスチュアート・ラッセル教授が、国連のAIサミットでこの問題を提言2しました。
要するに、2026年までにトレーニングのためのデータをAIが取り込み終わってしまう可能性が高い──すなわち、成長が頭打ちになる(かもしれない)ということです。
電力不足問題
先ほどから何度も登場しているイーロン・マスクですが、2024年3月、Bosch Connected World Conferenceでのインタビューにおいて「電力不足問題」にも言及3しています。
以下は、この際のイーロン・マスクの発言を要約したものです。
- 乗用車の有用性:自動運転技術により、乗用車の平均使用時間は週に約10時間から50~60時間に増加し、有用性が5倍になる。
- チップラッシュ:現在のチップラッシュ(高度な半導体チップに対する急速な需要増加とその供給を追い求める現象)は、過去のどのゴールドラッシュよりも大きい。テスラは、人間ができることをほとんどすべて行えるヒューマノイドロボットを開発中である。
- AI分野の制約:AIの進歩は指数関数的であるが、永遠に続くわけではなく、いずれ制約に直面する。
- 電気不足:AI技術の急速な進歩により、次の大きな問題は電力不足になる。十分な電気を供給することが新たな課題である。
どれも重要な発言と言えますが、今回、特に注目したいのは「電気不足」についてです。
電力不足:AIと暗号資産による莫大な電力消費
イーロン・マスクは同インタビュー内で「半導体チップの需要が高まることで、来年、つまり、2025年には電力不足に陥る可能性がある」という趣旨の発言をしています。
BCG(ボストン コンサルティング グループ)の試算によると、米国のデータセンターの電力消費量は、2022年の126テラワット/時(TWh)から2030年には390テラワット/時に増加──つまり「約3倍」になる4とされています。これは、米国の一般家庭4000万世帯の消費量に相当します。
データセンターとは、分かりやすく言うと、複雑なコードを24時間365日ぶっ続けで実行する巨大コンピュータがひしめき合っている倉庫のこと。
人工知能(AI)はもちろんのこと、暗号資産(仮想通貨)に必要な処理は大部分がデータセンター内で行われていると考えてよいでしょう。
また、国際エネルギー機関(IEA)は、「2026年までにAIと暗号資産の電力消費は少なくとも2倍に増加する5」としています。
『──これら3つのセクター(データセンター・AI・暗号通貨)による世界のエネルギー消費量は、2026年には620~1050テラワット/時になるだろう』
この予測は、少なくともスウェーデン1国分、またはドイツの大部分の消費電力が加わることを意味します。
電力不足への解決策は核融合?
2024年1月、ダボス会議──世界経済フォーラムの年次総会──にてOpenAIのCEOであるサム・アルトマンは、今後のAIの進化について発言6しました。
「There's no way to get there without a breakthrough.(エネルギー面でのブレイクスルーが欠かせないやで)」
その上で、より気候に優しいエネルギー源──特に「核融合」や「安価な太陽光発電と蓄電」がAIを前進させる道であると指摘しています。
核融合の実用化はいつ?
2035年に核融合運転予定「ITER計画」
核融合の実用化に向けたプロジェクトとして、国際熱核融合実験炉──通称「ITER(イーター)」と呼ばれるものがあります。
これは、中国、EU、インド、日本、韓国、ロシア、アメリカの合同プロジェクトであり、2020年からは実際にフランス南部での融合炉組み立ても始まっています。
コロナ禍の影響で作業に遅れが出ていたようですが、現在は順調に進められており、2035年には核融合反応を起こし、熱を発生させる計画があります。
核融合のメリットと危険性
本題とは逸れますが、「AIと電力不足」と「核融合」の話題は関連性が高いと思うので、少しだけ触れておきます。
核融合の主なメリットとしては以下の3つがあります。
- 大量のエネルギーを生成:とても少量の燃料から巨大なエネルギーを生み出す。燃料1gから石油約8年分のエネルギーに相当する量が得られる。
- クリーンなエネルギー源:燃焼過程で二酸化炭素を排出しない。よって、気候変動への影響が非常に小さい。
- 安全性が高い:核分裂と異なり、暴走事故のリスクが非常に低いため、安全に管理しやすい。
1gの核融合燃料から得られるエネルギーは、約105,192メガジュール7で、これは1年間でおよそ8世帯の平均的な電力消費を賄うことができる量です。
一円玉1枚分の燃料量から8世帯の電力消費1年分が賄えると考えると、もはや「核融合が実現できれば、世界のエネルギー問題はすべて解決できる」と言っても過言ではないでしょう。
2028年までに核融合発電が実現する可能性
また、米スタートアップのヘリオン・エナジー(以下、ヘリオン)は、2028年までに核融合発電所の稼働開始を目指している8としています。
さらに、ヘリオンはすでに「核融合発電所で発電した電力(4万世帯分相当)をマイクロソフトに供給する契約」を締結しています。
これは「世界初の核融合発電によるエネルギー購入契約」であり、開発に失敗した場合は違約金を払うことになるため、相当な自信があると見てよいかもしれません。
核融合と宇宙開発の関連性
核融合の理想的な燃料として、特に「ヘリウム3」が注目されています。この物質は地球上では非常に希少ですが、月の土壌には豊富に存在するとされています。
「月にあるヘリウム3やその他の資源を採取し、将来的なエネルギー源として利用する可能性がある」ということも、宇宙開発が特に活発化している理由の一つと言えるでしょう。
特に核融合研究では、ヘリウム3を使用した反応が非常にクリーンなエネルギーを生成するとされていることから、大きな関心を集めています。
まとめ
核融合とAGI、どちらの実現が早いかは神のみぞ知ることですが、これからの5年──つまり、2030年までには人類がこれまで体験したことのないレベルで、大きな変化が何度もやってくると僕は考えています。
個人的な見立てとしては、「早ければ、2028年にはAGIが実現し、2030年には核融合が実現する」といったところでしょうか。いい加減な予想であるし、希望的観測も多分に含まれていますが。
そもそもAGIが実現すれば既存のエネルギー生産の効率もアップし、様々な分野の研究も捗ること間違いなしなので、それによって核融合実現も早まるでしょう。
仮にAGIの準備ができていたとしても、AIアライメント──人間の価値観や目標を埋め込み、できるかぎり有用で安全かつ信頼できるものにするプロセス──が最大の課題であることは確かです。
これからの時代に特に必要となるのは、道徳や倫理、メタ認知──自らの認知を認知する──スキル、哲学、宗教といったものなのかもしれませんね。
- イーロン・マスクがOpenAIとサム・アルトマンを提訴、人類のための「使命を放棄した」という主張の真意
- ITU INTERVIEWS @ ITU AI for Good Global Summit: Stuart Russell
- Elon Musk at the 2024 Bosch Connected World Conference
- 暗号資産とAIが莫大な電力を消費…データセンターの消費量は今後7年で3倍に(海外)
- 2026年までに暗号資産とAIで電力消費が急増=IEAが警告
- 将来のAIにはエネルギーのブレークスルー必要=アルトマン氏
- 石油のエネルギー密度は約41.8メガジュール/kgとして計算
- 2028年に核融合発電が実現?マイクロソフトが米スタートアップと「電力購入契約」を締結