自律神経を整えて睡眠の質を上げる。脳疲労や不安との関係性とは

自律神経のバランスが崩れると、精神的な問題にも影響が及ぶことがわかっており、生理学者ハンス・セリエの「ストレス理論」では、交感神経が長時間活発になることが慢性ストレスの原因であると指摘されています[1]。

また、脳科学の研究では、交感神経が優位な状態が続くと、脳の認知機能が低下し、集中力や記憶力の低下につながることも示されています。

現代社会では、交感神経が優位になりがちな生活が一般的ですが、意識的に副交感神経を優位にする時間を作ることで、睡眠の質を上げ、心身の健康を保つことができます。

今回は、交感神経と副交感神経の違いを説明しながら、「なぜ現代人は交感神経が優位になりやすいのか?」や「副交感神経を優位にするための生活習慣」などについて詳しく見ていきたいと思います。

1. 副交感神経と交感神経の違いを理解する

日常生活で感じるストレスや緊張、またはリラックスした状態には、自律神経が大きく関わっています。自律神経は、体の無意識の働きを制御する神経系で、大きく「交感神経」と「副交感神経」の2つに分かれます。

交感神経の働き

交感神経は「戦うか逃げるか」反応(fight-or-flight response)を司り、ストレスや緊張時に活発になります。主に次のような作用を持ちます。

  • 心拍数や血圧を上げ、筋肉に血液を送る
  • 呼吸を速くし、酸素を供給
  • 消化活動を抑制
  • 瞳孔を拡大し、視覚を鋭くする

交感神経が活発になる行動や習慣は、以下の通りです。

  • 仕事や勉強の集中時:緊張状態が続き、交感神経が優位に立つ
  • スポーツや運動:活動的な運動により、心拍や血流が促進される
  • 緊張やストレスを感じている時:緊張した会議や、試験前など
  • スマホやパソコンの使用:特に寝る前の画面を見る行為は交感神経を刺激し、睡眠の質を低下させる

まとめると、交感神経は、緊張や興奮、ストレスに反応し、心拍数が上がったり、集中力が増す場面で活発になります。

副交感神経の働き

副交感神経は「休息と消化」反応(rest-and-digest response)を促進し、リラックスや安静時に働きます。主に次のような作用を持ちます。

  • 心拍数や血圧を下げる
  • 消化活動を促進
  • 呼吸をゆっくりとさせ、全身をリラックス
  • 瞳孔を縮小し、リラックスした視覚を促す

副交感神経が活発になる行動や習慣は、以下の通りです。

  • リラックスした入浴時:お風呂に入って温まることで副交感神経が優位に
  • 食事をとっている時:消化活動を促進し、リラックスモードになる
  • 寝る前の静かな時間:読書や深呼吸を行うと副交感神経が働き、眠気が促される
  • 瞑想や深呼吸:呼吸を意識して整えることで副交感神経が優位に

まとめると、副交感神経は、逆にリラックスした状態や休息を促す神経で、食事をしている時や、お風呂でゆっくりしている時、瞑想をしている時などに活発になります。

なぜ現代人は交感神経が優位になりやすいのか?

2つの神経は、状況に応じて切り替わり、体と心のバランスを保っています。しかし、現代社会では交感神経が過剰に活性化する要因が多く存在し、これが睡眠の質や心身の健康に悪影響を与えていることが多いのです。

特に次のような日常の行動や習慣が原因として挙げられます。

1. スマホやパソコンの多用

SNSやメッセージの通知、メールチェックなどは、常に脳を覚醒状態に保ち、交感神経が刺激される大きな要因です。

特に、夜遅くまでスマホを使うことは、睡眠の質を大幅に下げることがわかっています。ブルーライトは脳を覚醒させ、メラトニン──睡眠ホルモン──の分泌を妨げるため、寝る1〜2時間前にはスマホやパソコンを避けることが推奨されています。

少なくとも、寝る直前までスマホをいじることは「間違いなくやめたほうがいい習慣」に入るでしょう。

2. ストレス社会

学校や仕事のプレッシャー、複雑な人間関係など、現代人は多くのストレス要因に囲まれています。この結果、常に交感神経が活性化し、リラックスする機会が少なくなっています。

こうした状況が長期間続くと、慢性的なストレス状態になり、脳疲労や原因不明の不安、焦りを感じやすくなります。

3. 過剰な仕事やタスクの要求

仕事の多さ、タスク管理、締め切りのプレッシャーなどが交感神経を刺激し、リラックスする余裕が持てないということも挙げられます。

以外と軽視されがちなのが、日常における「ながら習慣」ですね。詳しくは後ほど解説します。

交感神経が優位な生活が日常化すると何が起きる?

1. 脳疲労

脳は常に活動し続けることで疲労しますが、特に交感神経が優位になると、脳が休む暇がなく、疲労が蓄積しやすくなります。これが慢性的な集中力の低下や、頭が重い感じの原因となります。

また、脳疲労は、頭がぼんやりして集中できない、思考がクリアでない状態「ブレインフォグ」の原因の一つとも言われています。ブレインフォグは日本語で「脳の霧」とも訳され、物事に集中しづらい、記憶が曖昧になる、判断力が鈍るといった症状が特徴です。

2. 原因不明の不安や焦り

常に交感神経が優位に働いていると、ストレスホルモン──コルチゾール──が過剰に分泌され、理由がはっきりしない不安や焦りの感覚を引き起こします。特にスマホやパソコンの過度な使用が、無意識の不安感を引き起こす要因となることがあります。

コルチゾールは、短期間であればストレスに対処するための役割を果たすんですが、長期的に高いレベルで分泌され続けると、不安感や焦燥感が強まる可能性があるのです。

さらに、コルチゾールの過剰分泌が長期間続くことで、次のような問題が発生することがあります。

  • 不安障害:コルチゾールが高い状態が続くと、脳の扁桃体が過剰に活性化し、不安や恐怖の反応が強くなることで、不安障害が発症するリスクが高まる。
  • うつ病:コルチゾールが慢性的に分泌されると、セロトニンやドーパミンといった脳内の神経伝達物質のバランスが崩れ、気分が落ち込みやすくなるため、うつ病を引き起こす要因の一つとなる。
  • 免疫機能の低下:コルチゾールが常に高い状態だと、免疫機能が抑制されやすくなり、体が病気にかかりやすくなったり、慢性的な炎症が起こるリスクが増す。

副交感神経を優位にするための生活習慣

副交感神経を意識的に優位にすることで、体と心がリラックスし、睡眠の質を高めることができます。副交感神経を活性化するためにおすすめの習慣は次のようなものがあります。

1. 読書

軽い内容の読書や興味深いフィクションをリラックスして読むことで、副交感神経が優位になります。ただし、緊迫した内容の本やスマホでの電子書籍などは、交感神経を刺激することがあるので注意が必要です。

2. 瞑想

深い呼吸を伴う瞑想は、副交感神経を効果的に活性化します。特に、マインドフルネス瞑想は科学的にもストレス軽減効果が確認されています。脳科学者であるリチャード・デイヴィッドソンの研究によれば、瞑想は脳のストレス反応を抑え、心を落ち着かせる効果があることが示されています[2]。

3. 料理や食事

ゆったりとした気持ちで料理を楽しむ、または食事をゆっくりと噛んで味わうことは、副交感神経を優位にする代表的な行動です。逆に、急いで食べると交感神経が刺激され、消化にも悪影響を与えます。

交感神経と副交感神経の切り替えについて

交感神経から副交感神経への切り替えには、一般的に30分から1時間ほどかかると言われています。特に、ストレスや仕事、スマホの使用などで交感神経が活発になっている場合、リラックス状態に戻すための時間が必要です。

そのため、寝る予定時刻の少なくとも1時間前にはリラックスできる環境を整えることが推奨されるでしょう。

副交感神経を優位にするための時間

以下のような副交感神経を優位にする習慣を取り入れることが理想的です。

1. リラックスできる活動をする

読書や軽いストレッチ、瞑想、深呼吸などは、副交感神経を優位にしやすいです。これを寝る前の習慣にすることで、自然にリラックスモードに切り替えられます。

2. お風呂に入る

寝る2時間前にお風呂に入ることで、体温が一旦上がり、その後自然に下がることで副交感神経が優位になります。体温の低下は、眠気を引き起こすメカニズムの一つであり、寝つきを良くするために有効です。

3. スマホやパソコンの使用を控える

スマホやパソコンのブルーライトは交感神経を刺激し、脳を覚醒状態にします。寝る1時間前からはこれらのデバイスを使わないようにすることが、交感神経の活動を抑える助けになります。

マジでやめたほうがいい行動習慣

自律神経系の働きを鑑みて推奨されない行動には、以下のようなものがあります。どれも日常生活の中で「ついやってしまう行動」かもしれませんが、心当たりのある方は意識して改善したほうがよいでしょう。

1. お風呂でスマホを使う

入浴は副交感神経を優位にし、リラックスを促す時間ですが、スマホを見ていると交感神経が刺激され、リラックス効果が薄れます。特に、SNSや仕事のメールなどをチェックすると、ストレスがかかり、リラックスどころか緊張を増幅させる可能性があります。

また、お風呂で映画やドラマ、アニメ、YouTubeなどの動画を視聴することも考えたほうがいいでしょう。

2. 寝る前にスマホやパソコンを使う

寝る前にスマホやパソコンを使用することも交感神経を刺激します。特にブルーライトは、脳に日中と錯覚させ、メラトニンの分泌を抑制するため、睡眠の質を下げます。寝る前はスマホを控え、リラックスする習慣を取り入れることを心がけましょう。

とはいえ、寝る前のスマホなどは「すぐにはやめられない習慣」のひとつでもあるかと思います。そんな方におすすめなのが「スマホをグレースケールで使用する方法」です。

根本的な解決にはならないかもしれませんが、色が脳に与える影響は思ったよりも大きいため、スマホの画面を白黒にするだけでも脳への負担は確実に減らすことができます。ぜひ試してみてください。ちなみに僕は四六時中スマホを白黒で使っています。

参考:スマホとパソコンをグレースケールにする効果とメリット!デバイス別の設定方法まとめ

3. 満腹直後の激しい運動

食事の後は副交感神経が優位になり、消化活動が促進される時期です。このタイミングで激しい運動をすると交感神経が刺激され、消化不良を引き起こす可能性があるため、避けるべきでしょう。

4. 仕事中に頻繁にカフェインを摂取

カフェインは交感神経を刺激し、集中力を一時的に高めますが、過剰に摂取すると体が常に興奮状態にあり、リラックスできなくなります。交感神経が過剰に働くと、睡眠障害や疲労感が増すことがあります。

できれば午後3時以降はカフェインを控え、普段の生活においてもエナジードリンクなどのカフェイン含有量の多い飲み物は避けたほうがいいと思っています。

【参考文献】

  1. Selye, H. (1956). "The Stress of Life." McGraw-Hill.
  2. Davidson, R. J., & McEwen, B. S. (2012). "Social influences on neuroplasticity: Stress and interventions to promote well-being." Nature Neuroscience.