思考の多様性と自分らしい生き方。個性を尊重する社会とは?

人は、誰しも一人ひとり異なる考え方や感じ方を持っています。

しかし、学校や職場では、同じ基準やルールに従うことが求められることが多く、それが息苦しく感じられることもあります。

今回は「思考の多様性」をテーマに、人それぞれの違いを尊重することの大切さについて考えていきます。

思考の多様性とは?

まず、「思考の多様性」とは何でしょうか。人は誰もが、物事を考えるときに異なる方法を用います。

例えば、誰かは物事を言葉として頭の中で整理し、誰かはイメージ映像として考えるかもしれません。

これは、哲学者ウィリアム・ジェームズが「意識の流れ」という概念で説明したように、人間の思考が固定的なものではなく、絶え間なく変わり続けるプロセスであることを示しています。

ジェームズの「意識の流れ」の考え方は、思考が一定の形や手順に縛られるものではないという点で、人の思考がどれだけ多様であるかを理解する助けになります。

つまり、人それぞれが異なる形で考えるのは自然なことであり、そこには「正しい」思考方法や「間違った」方法は存在しないということです。

共感覚から見る思考の多様性

共感覚という現象も、思考の多様性を理解する上で重要と言えます。

共感覚とは、ある感覚(例えば音)を感じると、他の感覚(例えば色)が同時に引き起こされる現象のこと。

僕もしばしば味覚に音色のイメージを感じ、精神状態が酷く悪いときやかなりの疲労状態だと、さらに色の感覚も混じりますが、この感覚を人に説明するのはとても難しいです。

こうした共感覚も、人の脳や思考がどれほど異なる形で機能するかの一例と考えることができるでしょう。

社会が作る「決まった箱」とは

次に、社会が人々の思考や行動をどのように「決まった箱」に押し込めようとしているかを考えてみます。

学校や職場では、人々が同じように学び、同じように働くことが求められがち。

しかし、哲学者ミシェル・フーコーは、これに対して鋭い批判を行いました。

フーコーは、社会が作り出す規範や基準に従わせることで、人々を「正常」と「異常」に分けて管理しようとする仕組みを指摘しました。

『監獄の誕生』では、監視や規律のシステムが人々を統制し、標準化しようとする社会構造を批判しています。この視点から考えると、学校や職場での画一的な基準に疑問を持つことが重要と言えるでしょう。

人々の思考や行動が異なることは、必ずしも「異常」や「不適合」ではなく、ただ「違う」だけなのです。

さらに、教育の現場でも、すべての学生が同じペースで学ぶことを前提とするシステムは、個々の違いを無視していると言えます。

教育は一方通行の情報伝達ではなく、学ぶ側の個々の背景や興味に基づいたものであるべき──といったジョン・デューイの考えも、今後のAI技術の発展によってもしかしたら可能になるかもしれません。

思考の違いがもたらす孤独感

時に、自分が他の人とは違うことで、孤独感や疎外感を感じることがあります。「どうして自分だけこんなに考え方が違うのか」と悩むこともあるでしょう。

しかし、心理学者カール・グスタフ・ユングは、この違いを「個性化」というプロセスで捉えました。

ユングは、「人はそれぞれ異なる内面的な成長過程をたどり、最終的には自分自身の独自の存在として完成していくべきだ」と主張しています。

個性化とは、自分自身を他の誰とも異なる存在として認めることであり、孤独感や違和感を肯定的に捉え直すプロセスでもあります。

ユングは「シャドウ」と呼ばれる無意識の側面にも触れています。これは、人々が自分の中で認めたくない、または抑圧している部分です。

自分の違いや弱さをシャドウとして隠すのではなく、それを認め、受け入れることが、心の成長に繋がると彼は説いています。

最近の概念だと「自己受容」や「自己慈悲(セルフ・コンパッション)」がユングの考えに近いと言えるしれません。

自分らしい生き方の探し方

では、人はどのようにして自分らしい生き方を見つけ、社会の中で生きやすくすることができるのか──。

まず、自分がどのように思考し、何に興味があるのかを理解することが大切だと言えます。

人は皆、異なる才能──資質──や興味を持っているため、誰かが得意なことが、自分には合わないことも当然あります。しかし、それで結構。

サルトルの「実存主義」は、人が自分で自分の生き方を選び、決める自由があると強調しており、「人間は自由であり、運命や決まった役割に縛られることはない」としています。

要するに、『人生にマニュアルなんてないで。お前の生き方はお前が決めたらええんやぞ!』ということです。

違いこそ豊かさの源泉である

思考や感覚の違いは決して欠点ではなく、むしろ、社会を豊かにする源泉なのではないでしょうか。

最近はどうにも「多様性」という言葉が一人歩きして暴走している節がありますが、人々の違いを受け入れる姿勢を持つことは重要です。

社会が変わるためには時間がかかるかもしれませんが、一人ひとりが自分の違いを肯定し、自分に合った道を見つけることで、少しずつ生きやすくなるはず。

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参考:ウィリアム・ジェームズ『意識の流れ』、ミシェル・フーコー『監獄の誕生』、カール・グスタフ・ユング『個性化のプロセス』、ジャン=ポール・サルトル『実存主義』、フリードリヒ・ニーチェ『超人』