「読書量と年収は比例する」という話を、誰しも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
字義通りに解釈すると、「本を読めば読むほど、収入が上がっていく」となりますが、まあ、どう考えても"ウソ"にしか思えませんよね。
何とも言えない格言らしき雰囲気があるのは確かですが、この言葉には「もっとも重要な2つの要素」が欠けています。
ひとつは「よい本の」、そしてもうひとつが「かもしれない(知らんけど)」です。
これらふたつの要素を組み込み、正しい言葉に直すと、
「"よい本の"読書量と年収は比例する"かもしれない(知らんけど)"」
となります。元の「読書量と年収は比例する」の戦闘力が530,000だとすると、一気に322にまで下がってしまった印象ですね。
読書量に対して年収が云々という話は、前提条件として「よい本を読むこと」があってこそ、さらに言えば、あくまでも「そういった"傾向"にある」というだけの話です。
この点を勘違いしてしまっていると、貴重な時間とお金を自らゴミ箱へ投げ捨ててしまう結果にもなりかねません。
「生活が大変で、本を買うお金がない」
「仕事が忙しくて、読書のための時間が取れない」
不景気と呼ばれる現代だからこそ、今のうちから本当の意味での「読書量と年収は比例する」を学んでおきましょう。
「読書量が多い人ほど年収が高い」と言われる根拠は?
「富裕層」と「読書」についての統計データ
「読書量と年収は比例する」の根拠としてよく用いられるデータには、まず「Business Management Degree」の「HABITS OF THE WORLD’S WEALTHIEST PEOPLE(世界で最も裕福な人々の習慣)」が挙げられます。
この記事によると、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットといった世界の富裕層の、
- 88%が1日30分以上本を読む(「年収300万以下層」は2%)
- 86%が読書が好きである(「年収300万以下層」は26%)
- 63%が移動中にオーディオブックを聴いている(「年収300万以下層」は5%)
といった結果が報告されています。しかし、「読書が好きだから年収が高い」のか、それとも「年収が高いから読書を好む」のかは不明です。
世帯年収が高いほど読書量が多い傾向にある
実際、2009年の出版文化産業振興財団による「読書実態調査」では、あくまで「世帯年収が高いほど読書量が多い傾向にある」としています。
「1ヶ月間に読む本の平均冊数」と「世帯年収」の関係を見たところ、
- 1ヶ月に最低3冊以上本を読むと回答したのは、世帯年収が「1500万以上」の人がもっとも多く(40.5%)、もっとも少ないのは「300~500万未満」の人だった(22.6%)
- 1ヶ月に1冊も本を読まないと回答したのは、世帯年収が「1500万以上」の人がもっとも少なく(9.5%)、もっとも多いのは「300~500万未満」の人だった(28.8%)
という結果になりました。
これらのデータを見る限り、何となく「年収が高い人ほど読書の習慣がありそうだ」ということは分かりましたが、まだまだ「読書量と年収は比例する」と言い切ることは難しそうですね。
一番知りたいポイントである、「どのようなジャンルの本を、どの程度の深さと集中力で読んでいるか?」が抜け落ちてしまっています。
ここで重要になってくるのが、冒頭でも出てきた「よい本」というキーワードです。
「読書で得られるもの」とは何か?
「よい本とは何か?」を考える前に、まずは参考として、平成30年に文化庁が行った「国語に関する世論調査」から「読書をすることのよいところは何だと思うか?」の項目について見ていきましょう。
このデータによると、およそ60%の人が「新しい知識や情報を得られること」を読書のよい点として捉えていることが分かります。
他にも、「豊かな言葉や表現を学べること(37.1%)」「感性が豊かになること(36.5%)」「想像力や空想力を養うこと(33.3%)」などが挙げられています。
あえてこれらをひとつに集約するとしたら、おそらく「教養を得るため」ということになるでしょう。
では、「教養」とはいったい何なのでしょうか?
「教養」とは何か?
「教養とは何か」という問に対する——僕が「うわあ、かっこいいわあ」と思った——解答として、元大阪大学総長であり、哲学者である鷲田清一氏の言葉1があります。
教養とは「価値の遠近法」である。
価値の遠近法とは、どんな状況であっても、次の4つ、
- 絶対なくしてはならないもの、見失ってはならぬもの
- あってもいいけどなくてもいいもの
- 端的になくていいもの
- 絶対にあってはならないもの
を見分けられる眼力のことである。
内容を要約すると以上のようになります。つまり、教養とは——きちんと物事の判断ができる——物事の本質を見分けられること、と解釈できます。
そして、教養を得るためにもっとも身近で簡単な方法が「読書」なのです。
「よい本」とは何か?
ただし、中身のない内容の薄い本ばかり読んでいても、「教養」は得られません。
言い換えるなら、新しい知識や情報を得ることも、豊かな言葉や表現を学べることも、想像力や空想力を養うこともできない本は「読む価値がない」のです。
ドイツの哲学者ショーペンハウアーは、『読書について2』でこう述べています。
悪書を読まなすぎるということもなく、良書を読みすぎるということもない。悪書は精神の毒薬であり、精神に破滅をもたらす。
良書を読むための条件は、悪書を読まぬことである。人生は短く、時間と力には限りがあるからである。
では、いったい「良書」とは何なのでしょうか?
同じく、『読書について』からショーペンハウアーの言葉を引用します。
比類なく卓越した精神の持ち主、すなわちあらゆる時代、あらゆる民族の生んだ天才の作品だけを熟読すべきである。
彼らの作品の特徴を、とやかく論ずる必要はない。良書とだけ言えば、だれにでも通ずる作品である。このような作品だけが、真に我々を育て、我々を啓発する。
端的に言うと、「古典を読もう」ということですね。実に分かりやすく、シンプルな考え方です。
もうひとつ、良書に関しては、フランスの哲学者であり、数学者のルネ・デカルトの言葉を『方法序説3』から引用せざるを得ません。
すべて良書を読むことは、著者である過去の世紀の一流の人びとと親しく語り合うようなもので、
しかもその会話は、彼らの思想の最上のものだけを見せてくれる、入念な準備のなされたものだ。
もう、かっこよすぎやしませんかね?
ここまでのまとめ
年収が高い人ほど読書量が多い傾向にあるが、どのようなジャンルの本を、どの程度の深さと集中力で読んでいるかは分からない。
Q.そもそも、読書で得られるものは何か?
A.教養
Q.教養とは何か?
A.物事の本質を見分けられること
Q.どういった本を読めば良いのか?
A.良書(天才の作品≒古典)だけを熟読すべき
「自己啓発本の罠」とは?
「100冊以上の自己啓発本を読んで気づいた5つのこと」でもまとめていますが、正直、ほとんどの自己啓発本は「書いてあることがだいたい一緒」なんですよね。
まあ結局、すべての本に書いてあることは過去からの引用なんですが、それにしたって最近の自己啓発本は内容が薄い、すなわち「費用対効果が悪い本」が多い印象です。
少なくとも、読書量と年収の関係性に興味があり、収入アップや自己研鑽のために「読書」という選択をしているのであれば、それこそ「古典を読むべき」です。
もし、本当に「読書量が収入アップにつながる」のだとしても、それはあくまでこれまでに読んだ本の冊数ではなく、これまでに読んだ"良書"の冊数であり、どれだけそれら良書の内容を実践してきたかなのではないでしょうか?
100冊以上の自己啓発本を読んで気づいた5つのこと
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日々の生活の中に真の「学問」がある
英国の作家であり、医者のサミュエル・スマイルズは『自助論4』の中で、以下のように述べています。
人間は、読書ではなく労働によって自己を完成させる。つまり、人間を向上させるのは文学ではなく生活であり、学問ではなく行動であり、そして伝記ではなくその人の人間性なのである。
そうはいっても、すぐれた人物の伝記には確かに学ぶところが多く、生きていく指針として、また心を奮い立たせる糧として役立つ。
また、1万円札の顔である福沢諭吉は『学問のすすめ5』の中で、
勇気というものは、ただ読書して得られるものではない。読書は学問の技術であって、学問は物事をなすための技術にすぎない。実地で事に当たる経験を持たなければ、勇気は決して生まれない。
と言っていますし、2024年から新しく1万円札の顔になる渋沢栄一も『論語と算盤6』の中で、
知識がどんなに十分あっても、これを活用しなければ何の役にも立たない。これを活用するというのは、勉強したことを実践に結びつけることだ。
こちらの方も学んでいかないと、どんなにたくさんの知識があっても、まったく活用できなくなる。(中略)
机に座って読書するだけを学問だと思うのは、まったく間違っている。
と言い切っています。
以上の内容を要約し、ぎゅぎゅっとまとめると、
「学問とは、本——あくまで良書と呼ばれる本——を読み、そこで得た知識を実践に結びつけ、経験を持つことである」
と言い換えることもできるでしょう。
読書量と年収が云々という話は、先に「良書で得た知識を実践に活かす」ことをした上でようやく出てくる話です。
だからこそ、「読書量と年収は比例する」はウソであり、「"よい本の"読書量と年収は比例する"かもしれない(知らんけど)"」が正しいと言えるのです。
日本人の読書量の平均は?
20~60代の約半数が月に1冊も本を読んでいない
もし、手っ取り早く収入を上げる方法があるとすれば、それはおそらく「誰でもできるけど、誰もがやらないことを愚直にやる」ことでしょう。
2019年12月、国立青少年教育振興機構が発表した「読書習慣に関して」の調査結果7を見てみると、
「全国の20~60代の男女5,000人を対象に読書習慣に関しての調査をしたところ、全年代をあわせて、1カ月に本をまったく読まないとした人は49.8%に上った」
とされています。つまり、20~60代の約半数が月に1冊も本を読んでいないんですよね。
また、平成30年度の文化庁による「国語に関する世論調査」の結果8においても、47.3%が「1ヶ月に1冊も本を読まない」と回答しています。
60.4%が「今後、自分の読書量を増やしたい」と思っているのにもかかわらず、です。
読書に関する支出金額は10年前から2割減少
平成30年、総務省統計局「読書に関する支出」の調査結果9によると、読書に関する年間支出金額は、おおむね減少する傾向にあるとのことでした。
内訳についても、
- 書籍は、9,462円から7,478円と1,984円(21.0%)の減少
- 雑誌(週刊誌を含む)は、10年前の4,434円から3,150円と1,284円(29.0%)の減少
と、ともに減少している。
本を読んでいる人でも一日の平均読書時間は「39.1分」
さらに、大日本印刷が運営するオンライン書店である「honto」の読書についてのアンケートの結果10によると、「本や電子書籍を毎月1冊以上読んでいる」と回答したのは、もっとも多い場合で40代男性の62.0%、30代女性の66%でした。
「本を読んでいる」と回答した人でも、「一日の平均読書時間」は、20代~40代の男女ともに「一日平均30分前後」、もっとも長い場合で20代の男性の「39.1分」です。
月1冊以上の読書で「その他大勢」から抜け出せる
仕事や学校、子育てなど、世代や自分を取り巻く環境によって、読書に割ける時間は変わってきます。
「読書量と年収は比例する」を信じ、ただ闇雲に「本を読むこと」に貴重な時間とお金を割くぐらいであれば、良書(特に古典)を読むことを徹底し、本の内容を実践しながら、収入を増やす方法を模索していくほうが遥かにいいでしょう。
少なくとも、月に1冊以上、1日平均39.1分以上の読書をすれば、その他大勢から一気に抜け出すことができます。
「"よい本の"読書量と年収は比例する"かもしれない(知らんけど)"」
あくまでも「読書量と年収は比例する傾向にある」という話ですが、良書を読む習慣を継続することで、収入がアップする可能性が高くなるのは間違いありません。
今回、この記事で格言の引用元として挙げた本は、どれも名著と言うべき良書(古典)ばかりです。
古典と言えども、内容が分かりやすいように現代語訳がされているものもあるので、ぜひこの機会に読んでみることをおすすめします。
中でも、
- 渋沢栄一「現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)」
- 福沢諭吉「学問のすすめ 現代語訳 (ちくま新書)」
- ショウペンハウエル「読書について 他二篇 (岩波文庫)」
- サミュエル・スマイルズ「スマイルズの世界的名著 自助論 知的生きかた文庫」
は、まず読んでおいて損はありません。
ルネ・デカルト「方法序説 (岩波文庫)」は少し内容が固くてとっつきにくいかもしれませんが、思考を整理する上でとても参考になるのでぜひ読んでみてください。
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- 平成22年度卒業式・学位記授与式 総長式辞
- ショウペンハウエル「読書について 他二篇」斎藤忍随訳, 岩波文庫, 改版1983, p.134
- デカルト「方法序説」谷川多佳子訳, 岩波文庫, 改版1997, p.13
- スマイルズ「自助論」竹内均訳, 三笠書房, 1988, p.16
- 福沢諭吉「現代語訳 学問のすすめ」斎藤考訳, ちくま新書, 2009, p.74
- 渋沢栄一「現代語訳 論語と算盤」守屋淳訳, ちくま新書, 2010, p.79-80
- 20~60代の半数、月に1冊も紙の本読まず 全国調査 - 日本経済新聞(2019/12/23)
- 国語に関する世論調査 平成30年度「国語に関する世論調査」の結果について - 文化庁
- 読書に関する支出 読書に関する1世帯当たり年間支出金額の推移 - 総務省統計局(「家計調査通信第536号(平成30年10月15日発行)」より)
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