電話を受けながらキーボードを乱打し、後輩の質問にも答え、会議の資料にも目を通す……。
『さすが先輩! 新入社員にできないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!』なんて一度ぐらいは思ったことありませんか?
一度に複数の作業をこなしていると一見効率的に思えますが、事実としてマルチタスクは効率が悪く、脳に悪影響を及ぼす可能性さえあるんです。
本日の格言『美人にキスをしながら安全運転できる人がいるって? きっとその人はキスに集中していないね』
マルチタスクとは?
マルチタスクとは、もともとコンピュータ用語で同時に複数の処理を行うことを指します。
たとえば電話をしながらメモをとる、資料に目を通しながらメールチェック、歩きながらスマホなどですね。
似たような言葉に「デュアルタスク」がありますが、こちらは2つのことを並行して進めること。ほとんど同じ意味ですね。
ただ「複数の仕事を一人でこなす or 並行してタスクを進める」のはマルチタスクではありません。
あくまでマルチタスクは同時作業のことです。複数の作業を短時間でこなすこともマルチタスクに含まれます。
人間の98%はマルチタスクに向いていない
ユタ大学応用認知ラボの主任であるデビッド・ストレイヤー氏の研究によると、
そもそもマルチタスクができる人間はたった2%しかいない1とのことです。
さらにこのようなこともいっています。
マルチタスクは同時にではなく、高速かつ細かくタスクを切り替えているだけ。どちらかが必ずおろそかになる。
タスクの高速切替に98%の人間は対応できない。脳の構造がそうなってるから、トレーニングで鍛えられるものではないよ。
もはやマルチタスクは才能の領域ですね。
脳は一度にひとつのことしか処理できない
これで「脳は同時作業ができる」というのはただの思いこみであることが判明しました。
実際はひとつの処理、つまりシングルタスクを瞬時に切り替えて処理しているに過ぎない2のです。
タスクを切り替えると、当然、脳での処理領域も変わります。Aという目標を保持したまま、Bの目標を達成するためにBの作業をはじめている、と。
これが積み重なったらどうでしょう? もちろん、脳で処理することや使用している場所が増えますよね。
結果的に脳に負担がかかり、集中力の低下や生産性の減少につながってしまうというわけですね。
マルチタスクの弊害が怖すぎる
マルチタスクの弊害は予想以上に深刻──ショッキングな事実が多いです。
- 運転中のマルチタスクは酔っ払い運転並み@ユタ大学3
- マルチタスクは脳を物理的に変化させる@サセックス大学4
- マリファナを吸引したときや徹夜状態と同様にIQが低下@スタンフォード大学5
- 普段からマルチタスクをしていると成績に悪影響を及ぼす@スタンフォード大学6、7
ほかにも、以下のようなデメリットもあります。
マルチタスクは仕事の生産性を40%減少させる
- 作業ミスが50%増える
- タバコや大麻が脳に与える効果の3倍以上
- シングルタスクに比べ作業時間が50%長くなる
- 極端なマルチタスクは15ポイントもIQを下げる
- マルチタスクで作業をするとあらゆる面での生産性が40%落ちる
- 現代人がひとつのタスクに集中して取り書かれる時間は平均で1分15秒
- 一般的なスマホユーザーは1日のうちに平均して150回スマホをみている
- いったん作業が中断すると、再びその作業に取り掛かるまでに平均で25分かかる
集中が途切れると再び集中状態に入るまで23分かかる
カリフォルニア大学アーバイン校の研究8によると、仕事を中断して再び集中状態に入るまで平均23分15秒かかるそうです。
中断された仕事のうち82%はその日のうちに再開されるようですが、再開するたびにどこまでやったかを思い出す時間、再び仕事に入り込むまでの時間がかかりますよね。
結果的にそういった小さな中断でも、蓄積することで大きなロスになる、と。
このように人の集中力はピークに達するまでだいたい20分ぐらいかかるわけです。急にあがるものじゃなくて、だんだんとあがっていく。
もし仮に20分でタスクを切り替えたとすると、実際に集中していた時間はゼロということになります。効率も生産性も下がって当然ですね。
なぜ人はマルチタスクがやめられないのか?
マルチタスクで時間のロスにつながることは明白です。
ではなぜ僕らはマルチタスクをしてしまうのか、またはやめられないのか?
理由は大きく2つに分けられます。精神的なもの、そして脳へのダメージの影響です。
精神的依存
はっきりいってしまうと、マルチタスクはただの自己満足、もしくは勘違いです。
たしかにいろいろな仕事をこなしている人は「仕事ができる」と認識される傾向にありますし、周りからの評価が高いことも多いです。
でも基本的には脳の構造上、98%の人間はマルチタスクに向いていないんですよね。
いろいろな仕事をこなしていると、いわゆる「オレかっけー」状態になります。たくさん仕事をした気になりますし、自分は仕事ができると感じることもあるかもしれません。
仕事をしているという感覚、万能感、有能感、それらが自己肯定感につながり、結果的に心理面から依存度が高まってしまうというわけです。
マルチタスクによるマルチタスク依存
タスクの切り替えを繰り返すと、脳の悪習慣が助長されます。
ここで出てくるのが「コルチゾール」という副腎皮質から分泌されるホルモンです。
- マルチタスクにより、ストレスホルモンであるコルチゾールが放出される
- 脳のギアを切り替え続けることでストレスが増加、精神的に疲れ切った状態に
- コルチゾールには脳に刺激を与えて思考を妨害する作用がある
- 脳がマルチタスクによる刺激を求めるようになる
- 神経系の中毒に陥り、無事マルチタスク依存に
スマホがヤバい
マルチタスクの最たるはスマホですね。
ニュースを見ながら、LINEのメッセージが来たら返信して、そのあとはゲームで遊んで、飽きたらSNSで友人の投稿のチェック──。
脳は中途半端な作業が積み重なると、無意識のうちに考え続けたり、処理を続けるようにできています。
結果的に作業が飽和状態になり、意識が分散され、目の前のことに集中できなくなっていくわけですね。
それがストレスになり、集中力や思考力を低下させ、脳はまた新たな刺激を求めるようになります。
充実感や満足感は得られるものの、実際はどんどん頭が悪くなっている──。悪質すぎるマッチポンプ、どこまでくそったれなんだ。
またSNSは精神面にも悪影響を及ぼすこともわかっています。漠然とした不安や焦りの原因はこれかもしれませんね。
- SNSの使い方を見直す
- スマホの用途をきちんと決める
- ひとつのことに集中する時間を作る
- LINEやメールチェックをする時間を決める
などの具体的な対策を取り入れて、スマホによるマルチタスクを極力防ぎましょう。
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マルチタスクのダメージは消えない?
新しい研究では『マルチタスクによる認知力の低下は永久に続くかも?9』という、「いや冗談じゃねぇぞ」って感じの可能性が示唆されてます。
サセックス大学は、一度に複数のデバイスを使って時間を過ごした人(テレビを観ながらメッセージ送信など)の脳のMRIスキャンを実施しました。
実験の結果、マルチタスクを行った被験者は前帯状皮質における脳の密度がほかに比べて低いということがわかりました。
共感や感情のコントロールをつかさどっている、灰白質(かいはくしつ)という場所ですね。マルチタスクで物理的に脳が変化するとは恐ろしい。
ちなみにこの研究ではマルチタスクが脳へのダメージの原因となっているのか、そもそも脳のダメージがあるからマルチタスクを促進しているのかは言及してません。
どちらにせよ「マルチタスクこええ」ということには変わりありません。
ハーバード大学の研究では「8週間の瞑想で脳の灰白質が再構築される10」ということもわかってるので、心当たりのある方はぜひ瞑想にチャレンジしてみてください。
マルチタスクでも大丈夫なこと
ここまで「マルチタスクは超危険だよ」という話をしてきましたが、中にはマルチタスクでも大丈夫なこともあります。
機械的な仕事や思考力を必要としない仕事、そういった短時間の仕事であればさほど悪影響はないようです。
- 歩きながら電話
- 運転しながら会話
- 歯磨きしながらテレビ
- 音楽を聞きながら掃除
- コーヒー飲みながら読書
意外だったのが「ご飯を食べながらテレビはよくない11」ということ。どうやら薄味に感じてしまうみたいです。
自然と濃い味付けを好むようになることで、いずれ健康面に悪影響を及ぼすことになるかもしれません。直ちに影響はなさそうですが。
女性の方がマルチタスクに向いている?
ロンドン大学の研究によると「エストロゲン(女性ホルモン)がマルチタスクに有利である12」と結論づけられてますが——。
もっとも新しい研究では男女にマルチタスクの有利不利はない13とのことです。そもそも人間そのものがマルチタスクに向いてません。
ということで紳士諸君は彼女と電話しながらちがう女のことを考えるのはやめたまえ。バレるし脳に悪い。
まとめ
現代社会でマルチタスクを完全に避けることは難しいので、せめて自分のできる範囲で対策を行っていきましょう。
なにか作業をしているとき、仕事をしているときはスマホの電源を落とすか、通知はオフに。
「集中が一度途切れると、再び集中状態に入るまで23分かかる」ということを常に頭の片隅に置いておきたいものです。
問題は、集中が途切れてしまうこと、時間が分断されてしまうことです。作業中に話しかけられるとか、メールやLINEが飛んでくるとか。
職場であればコミュニケーションも仕事への集中力もどちらも必要ですが、現代社会はちょっとコミュニケーションに偏りすぎな部分もあるんじゃないでしょうか。
脳は一度にひとつのことを重点的に考えるようにデザインされています。仕組みに沿った考え方や行動を心がけていきたいものですね。
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