朝晩20分の瞑想で見えてきたもの。体験した変化と感覚に共通点はあるか?

最近、ようやく朝晩20分間の瞑想を安定して続けられるようになり、その過程で、いくつかの興味深い変化や感覚を体験しました。瞑想中に現れる現象は人それぞれですが、意外にも共通点が多いことがわかってきたんですよね。

今回は、僕の体験と科学的な知見を交えながら、瞑想中に起こる不思議な現象について探っていきます。瞑想を始めたばかりの人も、長年続けている人も、きっと新しい発見が何かあるはず。

瞑想中に現れる5つの共通現象

1. リラックスと集中、脳の前頭葉の秘密

瞑想を始めて最初に気づいたのは、体がリラックスしていくのと同時に、不思議と集中力が高まっていくことでした。これは単なる気のせいではありません。科学的な説明があるのです。

2011年にハーバード大学の研究チームが行った研究によると、瞑想中は脳の前頭葉の活動が低下することがわかっています[^1]。前頭葉は、注意制御や感情の制御を担当する部位です。その活動が低下することで、逆説的に集中力が高まり、感情のコントロールが改善されるんですね。

2. 映像やイメージの出現、潜在意識の扉が開く瞬間

瞑想を続けていくと、突然、鮮明な映像やイメージが浮かんでくることがあります。

僕の場合、最初は円や線が連なった幾何学模様のようなものが浮かび、時には全く見たことのない光景──特に深い森などの自然──が広がることもありました。以前は過去の記憶や人の顔が多く浮かんでいたんですが、最近はなぜか幾何学模様ばかりが波打っています。以下はイメージ。

これは潜在意識が活性化される現象だと考えられています。ユング心理学では、この現象を「内的イメージ」と呼び、個人の無意識や集合無意識とつながる重要な手がかりだとしています[^2]。

また、光のイメージが見える経験も多くの人が報告しています。これは瞑想の伝統では「智慧の光」と呼ばれることがあり、深い洞察や気づきの前兆とされています。

3. 身体感覚の変化、重力から解放されるような軽さ

瞑想を深めていくと、身体の感覚が劇的に変化することがあります。僕の場合、体がすっと軽くなったり、逆に重くなったりと、その日によって異なる感覚を経験しました。

ただ、どちらかと言うと、映像やイメージのほうが強く、身体感覚の変化といっても比較的軽いものです。むしろ、身体感覚の変化は、いつも寝る前にやっている自律訓練法のほうが大きい気がします。

これらの感覚は、瞑想の深さや集中の度合いによって変わることがあります。2018年の研究では、瞑想中の身体感覚の変化が、自己認識や意識状態の変容と密接に関連していることが示されています[^3]。

4. 感情の浮上、過去の記憶との再会

瞑想中に、突然強い感情が湧き上がってくることがあります。喜びや幸福感に包まれることもあれば、逆に不安や悲しみが押し寄せてくることも。これは瞑想が心の深層にアクセスするためで、普段は気づかない、または抑圧している感情が表面化しているのだと考えられます。

マインドフルネス瞑想の研究では、この感情の浮上が心理的な治癒と成長につながる可能性が指摘されています[^4]。重要なのは、これらの感情を客観的に観察し、判断せずに受け入れること。

僕はしばしばこういった感情──ほとんどはネガティブなもの──に集中を邪魔されるため、その度に「雑念」とラベリングしてから、呼吸にそっと意識を戻しています。

5. 脳波の変化、ガンマ波とアルファ波の舞踏会

瞑想中の脳波の変化は、科学的に最も研究されている分野の一つです。特に注目されているのが、ガンマ波とアルファ波の活動増加ですね。

2004年のウィスコンシン大学の研究では、長年瞑想を続けている僧侶の脳では、通常の人よりもガンマ波の活動が顕著に増加していることが発見されました[^5]。ガンマ波は高度な認知機能や意識の統合に関連していると考えられています。

一方、アルファ波の増加は、リラックスと集中が同時に起こる瞑想特有の状態を反映していると考えられています。この「リラックスした集中」の状態が、瞑想の多くの効果をもたらす鍵となっているのです。

深い瞑想体験「奥のスクリーン」の謎

瞑想を続けていくと、さらに不思議な体験をすることがあります。

僕の場合、5分ほどで視界──瞼の裏の影──が波打ち始め、10分ほどで幾何学模様が、15分ほど経過すると、頭の中に普段とは違う「奥のスクリーン」が現れます。これは瞑想をしていると高確率で起こる現象であるため、どうやら勘違いではなさそう。

このスクリーンには、普段物を考えたりイメージしたりするときよりも、さらに奥深いところでイメージが映し出されるような感覚がありました。まるで、頭の中に二重のスクリーンがあり、普段は手前のスクリーンで考えているけれど、瞑想中は奥のスクリーンが活性化する──といった感じ。

この現象、実は僕だけの体験ではありませんでした。瞑想の実践者の中には、似たような感覚を報告している人がいるんですよね。

トランス状態との関連性

この「奥のスクリーン」の体験は、瞑想中のトランス状態と深く関連していると考えられています。トランス状態とは、意識が変性し、通常の認識や感覚が変わる状態のことです。

2019年の研究では、トランス状態に入ると、脳の特定の領域がネットワークを形成し、通常とは異なる情報処理を行うことが示されています[^6]。このネットワークの形成が、「奥のスクリーン」のような特殊な視覚体験をもたらす可能性があると推察できます。

内的ビジュアライゼーションの強化

また、この現象は「内的ビジュアライゼーション」の強化とも関連しています。瞑想中に意識が深まると、内的なイメージやビジョンが非常に鮮明になることがあります。

心理学者のカール・ユングは、この内的ビジュアライゼーションを重視し、「アクティブ・イマジネーション」という技法を開発しました。これは、意識的に内的イメージを育て、対話することで、無意識の内容を意識化する方法です[^7]。

トランス状態の生理学、脳と体で何が起こっているのか?

瞑想中のトランス状態では、単に心理的な変化だけでなく、身体にも大きな変化が起こっています。これらの生理的変化を理解することで、瞑想の効果をより深く理解することができるかもしれません。

1. 脳波の劇的な変化

トランス状態に入ると、脳波のパターンが大きく変化します。具体的には以下のような変化が観察されています:

  • アルファ波の増加:リラックス状態や軽い瞑想状態で見られるアルファ波が増加。これにより、心身のリラクゼーションが促進される。
  • シータ波の増加:深い瞑想やトランス状態では、シータ波が増加。シータ波は、創造性や直感、深いリラクゼーションに関連している。
  • デルタ波の増加:非常に深いトランス状態では、デルタ波が増加することがある。デルタ波は、深い睡眠や無意識の状態に関連している。

2020年の研究では、これらの脳波の変化が瞑想の深さや質と密接に関連していることが示されています[^8]。

2. 神経伝達物質のダンス

トランス状態では、脳内の神経伝達物質のバランスも大きく変化します。特に注目されているのが以下の2つです。

  • セロトニンの増加:セロトニンは、気分の安定や幸福感に関連する神経伝達物質。トランス状態では、セロトニンの分泌が増加し、リラックスや幸福感が高まる。
  • ドーパミンの増加:ドーパミンは、快感や報酬に関連する神経伝達物質。トランス状態では、ドーパミンの分泌が増加し、集中力やモチベーションが高まる。

これらの神経伝達物質の変化が、瞑想中の幸福感や集中力の向上につながっているのです[^9]。

3. 自律神経系のバランス調整

トランス状態に入ると、自律神経系のバランスも大きく変化します。具体的には、副交感神経が優位になり、以下のような変化が起こります。

  • 心拍数の低下:副交感神経が優位になることで、心拍数が低下し、リラックス状態が深まる。
  • 血圧の低下:リラックス状態が深まることで、血圧が低下し、全身の緊張が緩和される。

2017年の研究では、瞑想による自律神経系のバランス調整が、ストレス耐性の向上や心血管系の健康維持に貢献する可能性が示されています[^10]。

トランス状態を目的にすることの危険性

安全かつ合法的に「トリップ状態」に入る方法まとめでも書きましたが、トランス状態に入ることを目的に瞑想をすることは危険だと僕は考えています。

トランス状態はあくまで結果的な現象であり、そこだけに囚われてしまうと瞑想の最も基本的な目的──心を静かにし、平穏な状態を保つこと──から外れてしまう危険性があります。

また、瞑想には「魔境」と呼ばれる落とし穴が存在しています。その状態に陥ってしまわないよう、不思議な体験や感覚などへの過度な期待は持たないほうがよいでしょう。

朝晩20分間の瞑想が開く新しい世界

ようやく朝晩20分の瞑想を続けられるようになって、驚くほど多くの変化や気づきがありました。そして、それらの体験の多くが、科学的な裏付けを持っていることもわかりました。

瞑想中に経験する不思議な現象──リラックスと集中の共存、鮮明なイメージの出現、身体感覚の変化、感情の浮上、そして「奥のスクリーン」の出現──これらは全て、脳と心が持つ能力の一端を示しています。

これまで5分、長くても10分の瞑想が限界でしたが、この半年間で急に瞑想時間が伸びました。それから心身の感覚にも大きな変化が表れ始め、やっと本当の瞑想の面白さが見えてきたような気がします。

また、本記事で紹介したような深い瞑想状態での現象は、比較的瞑想歴の長い熟練者によく見られるものだそう。僕自身、瞑想時間こそ短いものの、瞑想自体は15年ほど前からちびちび続けていたので、トータルの時間としては結構な経験値が溜まっていたのかもしれません。

なんでも続けてみるもんですね。

参考文献

  • [^1]: Brewer, J. A., et al. (2011). Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(50), 20254-20259.
  • [^2]: Jung, C. G. (1964). Man and his symbols. Doubleday.
  • [^3]: Ataria, Y., et al. (2015). Phenomenology of meditation-induced states: A new experimental approach. Frontiers in Psychology, 6, 1586.
  • [^4]: Farb, N. A. S., et al. (2010). Minding one's emotions: Mindfulness training alters the neural expression of sadness. Emotion, 10(1), 25-33.
  • [^5]: Lutz, A., et al. (2004). Long-term meditators self-induce high-amplitude gamma synchrony during mental practice. Proceedings of the National Academy of Sciences, 101(46), 16369-16373.
  • [^6]: Carhart-Harris, R. L., et al. (2019). Neural correlates of the psychedelic state as determined by fMRI studies with psilocybin. Proceedings of the National Academy of Sciences, 109(6), 2138-2143.
  • [^7]: Jung, C. G. (1997). Jung on active imagination. Princeton University Press.
  • [^8]: Brandmeyer, T., et al. (2020). The neurocognitive dynamics of mindfulness meditation: A systematic review and integrative neurocognitive model. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 112, 54-66.
  • [^9]: Krishnakumar, D., et al. (2015). Meditation and yoga can modulate brain mechanisms that affect behavior and anxiety-A modern scientific perspective. Ancient Science, 2(1), 13-19.
  • [^10]: Pascoe, M. C., et al. (2017). Mindfulness mediates the physiological markers of stress: Systematic review and meta-analysis. Journal of Psychiatric Research, 95, 156-178.